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ブス★コンプレックス〜恋をしてもいいですか?〜

ふーこの恋
でぶ★コンプレックス・9

まってと、コタを呼び止めたものの、何を言っていいか判らない。
ああ、もう、考える時間っが欲しい。だって、言葉が上手くまとまらない...
「楓子?」
「あのね、あの...ありがとう。」
それしか出てこなかった。
その頬の殴られた痕はあたしのためなんだよね?
「あたし、馬鹿だった...あたしなんかと付き合ってくれる人がいるって、有頂天になってたから。あたしなんか、ほんとに言われた通りなのに。でも怖くて、気持ちも身体もついていかないよ。えっちするとか、そんなのもっと本当に好きになった人とじゃなきゃ出来ないって思った。何となくいい人とかじゃいやだったんだ。キスだって...」
イヤだった。抱きしめられたのだって、コタの腕の方が...
「キスしたんだ。」
目の前までコタが戻ってきていた。
あたしより頭一つ大きいから、頭の上から低い声がする。
「う、うん...」
「好きでもないのに?」
「好きだって、思おうとしたの。好きになれるかなって...あたしには優しかったんだよ、三浦さん。でも、気軽に付き合おうって言われて、その通りにとってたら...男の人だっていうの忘れるとこだった。あたしみたいな体型でも、その、別によかったんだよね。でも気軽にえっちとか出来ないし...」
「楓子、」
コタの声は低いままで、怒ってるのかって思っていたら、その腕が伸びてきた。
「いやなら逃げろよ。あの大学生の時みたいに。」
「え?」
コタの顔が近くまで...え?もしかして?と思ったらわずか数センチのところで止まる。
「何で逃げないんだよ...」
なんで、何でだろう?
三浦さんにされたときは、なんか我慢してって感じだった。
ちゅって、触れた。
「楓子、」
名前を呼ばれてまた軽く触れるキス。
「楓子」
コタが角度を変えてまた唇に...その時、離れる間際にぺろって、唇舐められた。
「ひゃっ」
その感触に驚いてあたしは飛び上がりそうになる。唇がじんと痺れたような気がした。
両肩はコタに掴まれたまま。でも逃げようと思えば逃げられるのに...
「嫌がれよっ!でないと、オレ諦めつかないじゃん!」
「え、何を諦めるの、コタ...?」
「だって、オレ、今まで楓子を傷つけてきて、こんなこと言う資格無いって思ってたけど、やっぱ楓子が好きだ。」
「ええ???」
「ええって、キスまでされて判んねえのか?バカ楓子」
だって、だって...ええ??
「オレ、楓子にとって許せない存在だっただろ?昔、子供心に嫉妬心剥き出しにして酷く傷つけて、ようやく許して貰えたと思ったら、オレが原因でまた楓子の事傷つけて...ごめんな、オレが楓子のこと好きになったから、いっぱい傷つけちまって。だけど、本当の楓子のこと何も知らない、あんな軽い大学生に楓子が軽く扱われてるのが許せなかったんだ。そんなアイツとキスしたって言うから、それなら、ずっとおまえのこと好きだったオレならキスしてもいいのかって...いやだったら逃げて、オレのこと嫌ってくれればいいって思ったんだよ。」
「コタ...あたしのこと、本気?」
「決まってるだろ!バレンタインのチョコをに嬉しそうな顔して良樹に渡しに来た時は、まだ気がついてなかったけど。ただ、オレにはくれないんだって、判って悔しくてさ。昔は義理でもくれてただろ?親が用意してくれてたの知ってたけど。」
思い出すけど、それって随分昔で...小学校に上がる前だよね?
「それって、幼稚園の時のこと?」
「ああ、オレたち同じさくら組から始まってひまわり組になるまでずっと一緒だっただろ?小学校に上がってから、女の子と仲良くしてると周りがうるさかったから、だんだん遊ばなくなったけど、オレは楓子と一緒に居るのが好きだった。おまえは、いつもにこにこ笑ってて、繋いだ手とかもふかふかでさ、それがどんな意味の好きかって気がついたのは楓子を傷つけてからだったよ。もう、遅かったけど...」
何か信じられないんだけど...コタが、あたしを?
「さすがにその後は諦めたよ。オレが悪かったんだし。高校はいってからは、背が伸びたせいか告られたりして、まあ、色々付き合ったりしたから、ずっと思ってたって訳じゃないけどさ。ココのバイトで楓子と再会するちょっと前まで彼女もいたし。そいつと別れたもんだから、前からうるさかったアイツが勝手に寄ってきて、おまえまで傷つけて...」
ごめんと言ってまたコタが頭を下げた。
「いい、そのことは、もう...」
「ずっとオレの胸の中には楓子が居たんだ。久しぶりにあって、また楓子のイイトコまたいっぱい見つけたし、いつも笑顔だし、人のいやがる仕事も『はい』って受けるし、おばちゃん達にも、ちっちゃい子供達にも好かれてて、楓子の側に居ると暖かかった。オレを許してくれたおまえをオレは守りたいって...楓子の笑顔を守り抜くぞって、そう決心したのに、又泣かせちまって。おまえが大学生と付き合うって言うから、おれは心から祝福するしかないって決めたのに...アノやろうが、楓子のこと大事にしねえから!そりゃ男だったら、付き合ってりゃキスもしたくなるし、それ以上のことだってしたくなるさ。けど、楓子は身体のことコンプレックス持ってるから、大事にしてやんなきゃダメなのに!無神経なこと言ってるアイツがオレは許せなかった。」
「えっと、じゃあコタも今まで付き合ってた子と、キスとかそれ以上もしたの?」
「そりゃ、むこうもOKだったから...って、楓子、ちがっ!」
「へーそうなんだ。」
やけにキスが慣れてると思ったわ。頭押さえても言っちゃったモノはしょうがないじゃない。経験ないのを自慢されても困るけど、まあ、ぺろっと答えてくれちゃって。相変わらず調子に乗ると全部言っちゃうんだから。そういうとこ変わってない。
「で、どうだったんだよ。楓子は、アイツのキスはイヤだったんだろじゃあ、オレのキスはどうだったんだよ?」
「え、それは...その...いや、じゃ、なかった...驚いてたのもあるけど、イヤじゃなかったもん。」
「ほんとか??」
「うん、だって、あたし、夏芽ちゃんが居たから、コタが彼女を選んだって思ってたから、諦めたけど、」
「え?諦めた??」
「うん、諦めたんだよ。」
「な、なにを??」
「だから、コタのこと」
「オ、オレ??」
「そうだよ、コタ久しぶりにあったら凄くかっこよくなってて、昔のこと謝ってくれて、その後も凄く優しくて...責任感だってわかってたけど、すごくうれしくて、一緒に公園でアイス食べたり、一緒に帰るのがうれしくて...」
「それ、責任感なんかじゃない、オレは、」
「あたしは、コタが好きだったよ。諦めて三浦さんと付き合おうと思ったけど、やっぱり無理だった。」
「楓子っ!」
ぎゅって、コタがあたしを抱きしめる。ふかふかのあたしの身体がぎゅってしなるほど...
「楓子、これからは、オレに大事にされて!」
「コタ...」
「ほんと、大事にするから!」
「大事にしすぎないで...」
「え?」
「今日はじめてコタのキモチ聞いたんだよ?大事にしすぎないで...」
もっと早くに聞きたかった。あたし傷つけまいとしてたことが反対になっちゃってたんだもん。
「あ、ああ、そうだな、大事にしすぎて、キスも出来ないのはオレもやだもんな。」
うう、キスにこだわるなぁ...さっき2回もしたくせに。
「ふーん、キスだけ?」
「あ、いや、それは、その...いつか、楓子がその気になってくれたら、いつでも!」
「ほんと?こんなおでぶでも?」
あたしみたいなので本当にいいのかなって。
「楓子っ、楓子は可愛いよ。ふっくらしてるとこも、優しい笑顔も、全部!だから、そんな風に言うな。」
「じゃあ、自信なくしたときはちゃんとコタが自信つけさせてくれる?」
「ああ、もちろんだって!あ、でもどうやれば楓子の自信って、つくんだ?」
焦るコタも可愛いんだ。
「コタが、好きって言ってくれたら、あたしはあたしが好きになれる。」
「ほんとか...オレ楓子のこと、マジで好きだよ。」
「コタがあたしのこと可愛いって言ってくれたら、あたしは可愛いって思えるの。」
「だから楓子は可愛いって!」
「それから...」
「それから?」
「それから先はコタが自分で考えて!」
これ以上女の子に言わせないでよ...コタの馬鹿っ!
「わ、わかった...考える...じゃあ、その、取りあえず、キスしたら、どうなる?」
「試してみてよ。」
わかったって言って、コタは真剣な顔して唇を重ねてくる。あたしはほんの少し唇を緩めると、遠慮がちにコタの舌があたしに触れてきた。
「ん...」
ほんの少しだけ突いて、唇を舐めて離れていった。
「判った、キスしたら、楓子は色っぽくなる...だから、あんまりしない方がいいな。」
「どうして?」
「だって、オレが我慢出来なくなるだろ?」
「なにを我慢するの?」
「くーっ、ったく、そのうちいやってほど判らせてやる!!」
そう言ったコタがあたしをまたぎゅって抱きしめて、それから、またチュって軽くおでこにキス。
「あのさ、ガソリンスタンド首になったから、またスーパーでバイトしてもいいかな?」
「店長、喜ぶと思うよ。」
「あ、でもあの大学生どうしよう...」
考えたらこの一瞬、あたしは二股状態??ま、まさかね...たぶんあの時点で三浦さんはあたしのことイヤになってるだろうし、そんなに言うほど好きになられてる、大事にされてるッて気はしなかった。だから大丈夫だって思うんだけど。
「コタは、どうしたい?」
「楓子はオレのモノって宣言する。」
「じゃあ、あたしも三浦さんにごめんなさいってする。」
ヨシって、ふたりで決意を固めあった。


しばらくはコタと手を繋いでベンチに座ってたけど、よく考えたら凄い時間?
「ヤダ、今何時?あたし携帯持ってきてない!!」
「げ、時間...12時回ってる!!やべーよ、楓子!オレ家まで送る。そんでもっておじさんやおばさんに謝るよ。」
「あ、あのね、お父さんが見てたんだよ、コタが喧嘩するとこ...」
「そ、それも、謝る...楓子と付き合わせてもらうために、オレ、土下座でもなんでもする。」
「一緒に怒られようね?」
笑い合って、手を繋いで公園の出口に向かって歩き出す。
ここからだとコタんちに戻って自転車とってくるより歩いて帰った方が早いから。
夜道をふたり、繋いだ手をぶらぶらさせながら歩いていると、昔もこうやって家に帰る時は、手を繋いで歩いたのを思い出す。調子のいいときはお歌を歌いながら歩いたっけ。
「ね、昔みたいに歌でも歌居ながら歩く?」
「ばーか、恋人同士は手繋いで歌なんか歌わねーよ。」
「じゃあ、なにするの?」
聞き返すとコタの足がピタッて止まって、外灯の下あたしの目の前に影が出来て重なる。
唇に暖かい、コタのキス...る。
「こうやって、キスするに決まってんだろ?」
そう言って笑ったコタの顔が赤いのは、耳が真っ赤なのでわかった。
「そっか...へへへ」
もう何度めかのキスなのに、あたしはまだ慣れなくて、嬉しくて照れくさくて、下を向いたままコタの手に引っ張られて歩いた。


予想通り、父に酷く怒られ、翌朝のコタは両頬が腫れていた。
コタのガソリンスタンドでの非礼と、女の子を連れて、夜遅くなった男の責任だといって殴ったのだ。
後で聞いたんだけど、父はそれほど怒ってなかったそうだ。だけど、責任を果たそうとしてるコタにケジメをつけさせてやったのだと言った。
「よくわからないよ。」
あたしがそう言うと、これは男同士じゃないと判らないだろうなって、「数年後の分も入ってるから、その時は殴らないようにするよ」って答えた。父は、幼い頃から知ってるコタが男になったんだって、凄く嬉しそうな顔していた。
「孝太郎くんだったらお父さん反対しようがないだろ。」
そう言われて、ようやく何を言われてるのか判ったけど、そんな、気が早いよって母とふたりで笑った。


コタはほどなくスーパーのバイト先に復活した。三浦さんはあたしが謝るまでもなく、もういいよってすんなりお別れした。K女子の女の子が物珍しかっただけ、なんて言われたけど、不思議と悔しくもなかったのはコタのおかげかな?

「楓子、帰ろっか。」
「うん、今日はどうする?」
「アイス買ってきたぞ。トルコ風アイスの新製品!」
「きゃ〜それ食べたかったの!でも、あたしこんなに食べてたら又太っちゃうよ?」
「まあ、そんときはオレが責任とってやるよ。」
「え?」
「さ、食いながら帰ろうぜ。又遅いとおじさんに殴られる。」
「あ、まって!」

あたしたちは、あたし達のペースで恋を続けていくんだと思う。
「でぶでも、ちゃんと恋が出来るんだね」って言ったら、アキに頭叩かれたけど、体型で恋しちゃいけないんだって判った。あたしのイイトコ、ちゃんと判ってくれるコタがいたから...
きっと、アキにもタカにもその良さを判ってくれる人いるはずだよって、そう思う。

コンプレックスは、無くなったりしないけど、それなりに乗り越えられるんだなって、あたしは思った。

ばいばい、でぶコンプレックス!
−Fin−
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でぶコンプレックスはココまでです。さて次回は…気長にお待ちくださいませ!
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