ずっと、ずっと...〜番外編〜       <今村くんと芳恵ちゃん>

〜いつか好きになる...〜

あたしは笹野芳恵。高校1年なんだけど、期待させちゃ悪いから先にいっとくね、可愛くないから。ま、見た目も、性格もってことで。
でも人間何かしら取り得はあるもので、生きていく上で容姿の事なんかまあ何とかなるわって思えるほど困ってはいない。
取り柄っていうほどのものでもないけど、まあそこそこ頭も悪くないし、感がいいのか人を見抜く力っていうのは自信があるからね。外れたことないし、そのおかげで何とか世渡りしてます。タイプ的には女の子のBOSS的存在っていえばわかるかな?頼りになるけど、絶対にもてない!そこ、笑わないでくれる?しょうがないじゃない、自覚してるんだから。
でも一つだけ考えてなかったことがあった。こんなあたしが恋したらどうなるのかって...
高校もソフトボール部にはいると1年ですぐにキャッチャーでレギュラー入りした。もともとのキャッチャーの先輩が腰の故障で困ってたらしい。中学でもそこそこならしてたから、別に苦労はしなかった。人を見てね、対応すればそこそこうまく行くのよ。おまけに男みたいな容貌と体格は先輩方にも受けがいい。ただし、ちょっとがっちりしすぎててスカートっていうか制服は似合わない。ジャージでいると男と間違えられるのは日常茶飯事。ただしちょっとずんぐりむっくりだけどね身長はいくら測っても161しかない。男では低い方でしょ?
「よっしー、今日は一緒にかえろ♪」
高校で一緒になった親友(勝手に呼んでる)の小畠紗弓ちゃん。もうあたしの理想!っていうくらい可愛いんだ。色白で(あたしは地黒)線が細くって(あたしは骨太だ)髪もちょっと茶色がかってて、さらさらの肩までのセミロングをシャギーにしてるけど(黒で剛毛癖毛だからベリーショート)お目目パッチリ(一重です)それがさ、中身までかわいいんだ♪あたしが男の子だったら速攻告白してるよ?紗弓も『芳恵ちゃんが男の子だったら〜』なんて言ってる。
紗弓は目立たないけど結構芯はしっかりしてると思う。我慢強いんだよね。運動神経も筋力もあるからすぐにピッチャーに推した。最近はめきめき上達してる。
「紗弓さ、来栖と同じ中学出身だってね。」
「あ、うん...小学校も一緒だった。芳恵ちゃん、今クラス委員一緒にやってるんだっけ?」
「そう、来栖なんて女の子の票だよ?あたしは安全パイで挙げられたんだからたまんないね!」
くすくすと笑うしぐさも可愛い。あたしなんてがははだ。
「実はさ、芳恵ちゃんには言うけど、あたしりょうや、来栖くんとは道場仲間なの。」
「道場??」
「そ、柔道やってたんだ、小学校の時、一緒に...」
「な、仲良かったんだ?」
「その頃はね、でも急に避けられだして、5年ほど口も利いてないよ?なんでだろうね。」
悲しげに笑ってみせる紗弓。なんでこんな可愛い紗弓を嫌うんだ?これは一つ探りを入れなければ...
来栖遼哉はとんでもなくいい男候補だ。顔は冷たそうだけど綺麗な顔してるし、178の身長に長い足とくれば女の子にもてもてだ。特に今は3年の先輩からよく声がかかってるみたいだ。又それが色っぽくて綺麗な人...でもこれは紗弓には言っちゃだめだな。なんでって?勘にきまってるでしょ。
「お前損なタイプな。」
なぜにお前に言われなくてはいけない?来栖遼哉。綺麗な顔してるけど好みじゃない。横に並んでこっちが逞しく見えるからやだ。なのに委員会だって...
「そういう来栖ってさ、紗弓と幼馴染ってほんと?」
「あぁ...」
おっ、急に顔が暗いぞ?普段めったに感情出さないのに?
「嫌われてるって嘆いてたよ、あんな可愛い子どうして嫌うの?」
「お前に関係ないだろ!」
「珍しいね、ムキになって。いい子だよね、今は誰も付き合ってる人いないけど、あれはモテルね、護ってやりたいタイプだもん。この間も暮林くんが色々と...」
「暮林?」
お、反応してるね〜紗弓が唯一話をする男子。同じ中学校らしい。
「うん、なんかさ、前の中学で一緒だった奴らが紗弓に彼氏できないように見張っててくれって言われたって、あたしにも情報提供しろってさ。もてますね〜」
「....」
おほっ、反応あり?面白いなぁ。
「ま、関係ないか、来栖には3年の彼女いるしなぁ。」
「彼女なんかじゃないから...勝手に寄ってくるだけだから、余計なこと言うなよな。」
それは紗弓にかな?面白いけどこれは放っておこう。
「遅くなっちゃたなぁ。」
部活に遅れて行ったがためにしっかりじゅんちゃん監督にメニュー出されてた。まぁ1年でレギュラーでも特別扱いしないって彼女なりの思いやりってか?それでもキャッチング右左、正面20X3セットは練習後にきついですよぉ。紗弓にも、先帰っていいよって言っておいた。
夕焼けが中庭にまで伸びてきて、一瞬周りもオレンジ色に染まってるような風景。
あたしはこんな瞬間が大好きだ。ちょっぴり頑張ってる自分にご褒美みたいなね。こんな時ばっかりは少女っぽい感傷に身を任せてみる。あたしも女の子なんだなぁ。
けれどすぐにオレンジ色が闇の色に包まれていく。急に自分が一人ぼっちになった気がする。女の子っぽくしてみたところで似合いもしない。今日だって来栖と並んでたら3年のおねーさん方に嫌味の一つや二つ...
『やだ、りょうのクラスって副委員も男の子かとおもっちゃったぁ。あなたより逞しいんじゃないのぉ?』
はいはい、逞しいですよ。来栖なんかよりよっぽどね。線の細い、さらさら色素の薄い髪に、男の癖にやけに色白で、目元もきりりで冷たい顔だけど綺麗なのは確か。3年のおねーさま方が夢中になるのも判るよ。そんなの自覚してるんだから言わなくったっていいのにね。だから横に並ぶの嫌なんだよ。
「あれ?やだなぁ...」
なんだか涙まで勝手にこぼれてくる。あたしはそんな女の子じゃないはずなのに...いつも賑やかで頼りになって、強くて逞しい男みたいな女の子で...、そんな自分になったはずだよ。見掛けどうりの自分に...
「泣いてるの?」
(え、誰?)
振り返ると野球部の格好した少年、だよね。身長はあたし位?校舎の影で顔は暗くなってきて見えないのに、彼の方からだったらあたしの顔は丸見えだ。
(やだ!恥ずかしい...)
「な、泣いてないから...」
そういって部室まで駆けて行く。スパイクの金具がコンクリートの渡り廊下にかちゃかちゃと響いてる。
「ほんとに?」
その彼の横を通り過ぎようとして左腕をつかまれる。
(7組の委員長?)
たしかに今日の委員会で一緒だった彼だ。野球部の...名前までは知らない。
「大丈夫だから、離して...」
いつもみたいに男っぽく『離せよ』なんて言えない。あまりにもいつもの自分じゃなくなってる所を見られたせいだろうか?弱弱しい声は一体何処から出てるんだろう。
振り切って部室に駆け込み急いで着替える。
早く帰るしかない。さっさと鍵をかけて教官室に返しに行く。
(あ、また...)
またさっきの彼だ。じっとこっちを見てるけど、顔をそらして自転車置き場まで急ぐ。
別に付いてきてるわけでもないと思う。ただ方向が一緒なだけだろうけど...
少し離れて自転車を押してる。
ええい、もう乗っちゃえ!あまりにも同じペースなので驚いてしまう。何で付いてくるんだろう?比較的家の近いあたしはさっさと家に入っていく。彼の自転車がその前をさっと通り過ぎた。
(気のせいだったんだ...)
翌日7組の委員長を調べた。といっても野球部のミーハー娘に聞けば情報は早い。
「7組の?あぁ、今村 竜次くんね。唯一の普通科の野球部員よ。うちは体育科があるから野球部はほとんどがそうなのにね〜。彼、野球センスもいいけど頭もいいみたいね。無口だけど人望あるみたい。練習熱心で...」
「あ、ありがと、そんなに詳しいの?すごいね。」
褒めては見るけどあたしは名前が出てこなかっただけで...
「もう?情報あるわよ〜野球部の次期エースの長野君でしょ、それからうちのクラスの来栖君なんてさぁ」
「来栖?」
「うん、彼丸刈りは嫌だって言って野球部入らなかったけど、入ってたら長野くんとエースの座争ってるよね、きっと。彼って中学時代は野球部のエースで長野くんと投げ合って勝ってるのよね〜野球部に入ってたら即ファンになってるわ!」
目がハートになりかけてるのでありがとうっていって彼女から離れる。
7組には紗弓がいる。よし!
「紗弓〜ごめん、英語の辞書貸して?」
「よっしー、どうしたの忘れ物なんて珍しいね。いいけど待っててね?」
軽く返事してロッカーに向かっくれてる。ごめんね、本当は持ってるんだけど...。ぐるりと教室を見回す。
(いた、今村くんだ...)
野球部らしいおなじ丸刈りの人たち2、3人と談笑中だった。どっちかって言うと聞き役のようで、ポケットに両手突っ込んで窓枠に腰掛けていた。さっと目が合ってしまった。じっとこっち見てる?
「はい、よっしー?」
「ありがと、じゃあ、次の休み時間返しにくるから...」
こちらから視線をそらせる。まだ見てる?変なやつ...あたしなんか見てどうするんだろう?見に来て見られてる?あたしって...。
あたしは教室に戻った。なんだか落ち着かない気持で一杯だった。

  

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