月がほほえむから

20.幸せの約束(最終話)

あたしと宗佑さんの間のことは、女将さんも気がついてるみたいだった。
「あんな息子と、孫だけど、よろしくね。日向子ちゃんを娘と呼べるなんて、本当に嬉しいんだよ。」
そう言われてあたしこそと頭を下げる以外無かった。
あの時...
火事で焼き出された時、女将さんが拾ってくれなかったら、今時分どうしていたか...きっと試験にも受かってなかったと思う。
「あたしも、女将さんをおかあさんって呼べて、本当の家族になれるのが、すごく嬉しいです!」
優しく肩を抱かれて、あたしの母親にも挨拶に行かなきゃねと、告げられた。

あれから、急ぎ準備する郁太郎さん達より先に平日の教会を押さえた。教会にしたのは、新婚旅行に行けそうにないあたしに、せめてウエディングドレスを着せてやりたいって、女将さんからの申し出だった。
それから、色んな所に挨拶に行った。うちの母、それから圭太くんの祖父母、つまりは菜々子さんのご両親と、奈々子さんのお墓...
以前から圭太くんを引き取りたがっていたご両親も、圭太くんのきっぱりした意志に渋々あきらめることを承知してくれた。あたしが行かなくてもよかったかもしれないけれども、あたしは行かせて貰った。変な目で見られるかなって思ったけれども、事前に説明があったのか、何も言われはしなかった。ただ、『圭太を頼みます。時々は会わせてください』とだけお願いされた。
うちの母はただただ驚いてるだけで、宗佑さんの方がずっと落ち着いて見れた。




「んっ...あっ」
「日向子さん...大丈夫?辛くはないですか?」
「だ、だいじょうぶです、だいぶ...慣れました...でもこういうことって、その、こんなに、ずっとするもんなんですか?」
そう、あれから、ほとんど毎晩、宗佑さんは圭太くんが眠ってからあたしの部屋に来ていた。
「まあ...だから言ったでしょう?こうなるって...同じ屋根の下っていうのは、我慢が効かないモノなんです。最近は、日向子さんを抱きしめていないと眠れなくって...修習に行ってる間は、加減しますから。」
どうやって?って思うんだけど、他は知らないのでそのまま身体を預けていた。
教会で式を挙げて、ホテルでお互いの家族だけで食事したあと、一泊だけそこで泊まったんだけど...もしあれが加減してないんだとしたら、ちゃんと加減されてるって、それは判る。あんなの続けられたら、あたしは翌日動けなくなってしまうもの。

入籍を済ませて式を挙げたあたしは、すでに田辺でなく永井日向子として前期後期の修習に通うことが決まっていた。実務修習地もなんとか近郊で住んだので、週末にも帰ってこれると、思う。平日はさすがに帰るのは無理だと思うので、たぶん、アパートを借りると思う。

「ひなこぉ、あ...か、かーちゃん?」
「いいよ、ひなこでも。」
あたしも慣れないけど、今まで通りのようで今まで通りでない関係。
時々にぱっと笑って圭太くんがひっついてくる。
式の前日には、約束していたドレス一式を持って椎奈さんがお祝いに駆けつけてくれた。ウエディングプランナーをやっている彼女は、ドレスや下着やら、色々セットで持ってきてくれて、当日もセットからメイクまでやってくれて、ホテル側のスタッフがあまりの手際の良さに驚いていた。実はこのホテルも椎奈さんの勤めるホテルの同系列らしくって、色々と融通して貰った。ホテルで一泊してる間、食堂にも愛華ちゃんを連れて泊まってくれたし...ホントにあたしにとってお姉さんのような存在だった。今回は平日だったので、旦那様を置いて駆けつけてくれたらしいの。
「実はね、二人目、出来たみたいで...」
そっとそう教えてくれた。あたしはまだ赤ちゃんが出来るといけないからって、宗佑さんが、その、避妊してくれてるらしいから、出来ないよって言ってくれるんだけれども、郁太郎さんところもどうやらおめでたで、あたしも赤ちゃん欲しいなぁって思っちゃった...
それを言ったら
「落ち着いたら、いくらでも。」
って、その代わりお仕事おやすみしないといけないものね。


「あ、ひなこ、おつきさまがまんまるだよ!」
圭太くんがお庭で大きな声で呼ぶので出てみると、先に宗佑さんが圭太くんの側にいた。
「圭太はお月様がいいのか?とうさんはお日様がいいな。」
宗佑さんはそう言ってさりげなくあたしを引き寄せた。それを見た圭太くんが『ぼくもおひさまがいい!』ってくっついてくる。
「あたしはお月様がいいなぁ。」
お月様の方を見上げると、宗佑さんが振り返って微笑んでくれる。
「お月様って、いつも優しいでしょう?ね、今夜なんかいっぱい微笑んでくれるみたいだし...」
「ほんとだぁ、ぼくはどっちもすき!」
明るい圭太くんの声が夜空に響く。

あたしもみんな大好きだよ。

Fin

          

長い間の連載にお付き合い頂いてありがとうございました。
予想以上に長く、脇役が大活躍してしまいました。
日向子、大丈夫かなと思いつつ(笑)いったん終わります〜
司法試験などには全く詳しくなく、教えてくださったり情報を下さった皆様ありがとうございます。(詳細はお見逃し下さい(爆))
宗佑サイドのお話につきましては、本サイト、もしくは本サイトのBLOGでお知らせします。コチラでは予定してしませんのでご了承下さいませw