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ブス★コンプレックス〜恋をしてもいいですか?〜

ふーこの恋
でぶ★コンプレックス・1

あたしは柏崎楓子、通称ふーこ。
名前の通り、風船のようにふっくらしてるの。
生まれつきのぽっちゃり娘ってとこ。背はそんなに大きくないから、手と足は人並みに小さいんだけどお腹周りがっぽこりとしちゃって、でも残念なことに胸もそんなに大きくないのよ。幼児体型なのかなぁ?赤ちゃん独特の二の腕の二本線があるくらい。別にそんなにたくさん食べてるわけでもないんだけど、いつでもぽっちゃり。生まれたときの写真からしてそうなんだもん。諦めてます。その上運動神経がすこぶるよくないので、あまり運動しないからよけいに引き絞まらないんだよね。
お医者様に言わせるとちょっとばかしホルモンバランスが悪いらしいの。食事量も少ないから、減らすと倒れてしまうので、なかなか思い切ったダイエットも出来ないのが悩み。
要するに病気的なおでぶなんです。
よくある痩せたら綺麗とか、可愛く変身〜なんていうのにも憧れるけど、ダイエット不可能なあたしにとって、少女漫画にありがちな夢もそこでお終い。
そんなあたしだけれども、人並みに恋したりするんだよね。相手にされないのなんかわかってるんだけ、好きって気持ちは自然と湧いて来るじゃない?それにね、大好きなんだもの、恋愛小説に少女漫画!
タカちゃんとアキっていう小学校から一緒の親友達も同じ趣味をもってるんだけど、みんな諦めてるって言うか、達観しちゃってるんだよね。
タカちゃんは勉強は出来るんだけど、どう見ても女らしいふっくらさが足りない体型が悩みなんだって。そりゃ背は高すぎるかもだけどで、あたしからすればスレンダーで羨ましいよ?いくらがりがりでぺちゃんこだって、着れる服はいっぱいあるもの。ただね、本人が一番気にしてるのが顔つきなんだけど、薄い眉、細い目、細い唇が爬虫類系だって言われるらしい。小学校の時もそれをかなり男の子に言われてたらしいんだ。性格もどっちかっていうと大人しくて暗いかな?あたしは見た目通りのほほんとしてるんだけど、タカちゃんはあたし達相手でもあんまりしゃべらない。実はお母さんがすごい教育ママで、勉強詰め込まれすぎて感情の起伏が少なくなったんじゃないかとあたしは思うの。でもね、中身はすごくシャイで可愛い子なんだよ?あたしもアキもタカちゃんが心配で、大好きなんだよ。

そしてアキはすっごくカッコイイとあたしは思うのよ。まあ、たくましい体つきはどうしようもないけどさ、スポーツさせたら全部じゃないけどすごいんだよ?ソフトボールやってるから、下半身とかすごい体型になっちゃってるけど、顔つきも男の子だったらまあまあじゃないかなってほど精悍で、たくましい眉、力強い鼻筋、厚ぼったい唇、どれもが彼女をたくましく見せてるかな。それがアキの最大の悩み。ついた筋肉はどうしようもないし、日に焼けて黒いし、恰好によっては男の子に見えないこともないかな?でも、独特のソフトボール体型が一応女だって主張しちゃうんだよね。その彼女の最大の不幸は、お隣に見目麗しい兄弟が住んでるってことだよね。それはまた後でのお話として、守ってあげたい女の子とは遠く離れるアキは姉御肌。でもね、意外と家事が上手なんだよ。主婦の居ないお隣の家のことほとんどしてるって言ってたもの。お隣の美形で有名な花井兄弟にはお母さんが居なくって、アキも早くにお母さんが亡くなったけど、自分家はお父さんの後妻さんが居てちゃんとやってるし、弟や妹も小さいから居場所がないらしい。亡くなったお母さんがアキの行く末を心配して、せめてお嫁に行けるようにと家事だけは仕込まれたらしいの。

そんなあたし達が声を揃えて言う言葉。
『あたしたちは見た目で勝負出来ないから、せめて自立して生きていけるように強くなろう、そして卑屈にならずに自分を磨こうね。』って。
そのために3人揃って難関の有名女子高校を目指して頑張ったんだよ。あたしが一番危なくて、二人にかなり助けられたけれども、共学に行って一人でおどおどしていたくなかったから、あたしは死にものぐるいで勉強したんだよ。

女子校ってね、少々のおでぶちゃんでも視線痛くないの。男の子がいないからね。そのことで酷く傷付けてくる子もめったに居ない。勉強のレベルも高いから、生徒の質も良いわけ。それに、誰もが『もう少し痩せたい』って思ってる世界だよ?自分が傷つきたくないことをあからさまに言ってきたりしないし、反対にあたしをみて安心しちゃってるわよ。『癒される〜』なんて言ってね。
これが共学だったら...
いつ『ぶた!』とか『でぶ!』なんて言われるのをびくびくしてなきゃいけないんだもの。男の子が嫌いな訳じゃないわよ?素敵な人見たらいいなって思うし。そのあたりはアキやタカよりも素直かもしれない。
でもね、もう二度と告白なんてしないの...あんな思い二度としたくないもの!!
小学校の時、すごく好きな男の子が居たの。長谷部良樹くん、まあ、誰もが好きな子だったんだけどね、クラスの委員長をやってる頭が良くて、運動も出来て、誰にでも優しい典型的な優等生君だったの。どこぞのおぼっちゃまで、しつけよく育てられてるから穏やかな雰囲気を持ったカレのことはクラスのほとんどの女の子が好きだったんだわ。
あたしもそのひとり。大勢の中のひとりは気楽だった。別にそんなことで誰も馬鹿にしたりはしなかったから。
だけど、小学校5年生のバレンタインの日、みんなでチョコレートを渡しにその男の子のうちまで行ったときだった。そこには同じクラスの他の男の子がたまたま来てて、チョコを持ったあたし達のことを見て馬鹿にしたんだよね。
『なんだよ、おまえら良樹にチョコ持ってきたのか?』
クラスでもお調子者のコタこと孝太郎があたしの方をじっと見て手にしてる袋まで覗き込んできた。コタは幼稚園の時から同じ地区で、同じクラスが続いてる腐れ縁てやつなんだよね。
『おまえら恥ずかしくねえよな、良樹は優しいから誰からでも受けとるだろうけど、さっき華奈ちゃんが持ってきたんだぜ、おまえら敵わねえだろうから諦めて持って帰れば?』
『コタ、酷いよ...そんな言い方、ねえ?』
クラスで一番可愛い華奈ちゃんほどでなくても美樹ちゃんはそこそこ可愛い。だからぷっとふくれた可愛らしい顔をしてコタを睨んだ後長谷部くんの方を伺い見ていた。
『コタ、よせよ...ぼくはちゃんと受けとるよ。みんな、ありがとうね。』
『へえ、よかったな、良樹は誰からのでも受け取るんだってよ。こんなブスやデブからでもありがたくもらっって貰えてよかったよな、ふーこ。けど長谷部は細っこいから潰されちまうぞ?』
あたしを名指しだった。
『コタ、そんないいかたしたらふーこがかわいそうでしょ!』
美樹ちゃんのそれは、いかにもそのブスとブタの中には自分は入ってないといった言い方だった。
『いくら良樹でも、ふーこなんか相手にしないって言ってるだけだよ!』
あたしはゆっくりと長谷部くんの方を見た。
『ごめんね、柏崎さんだと僕、潰されちゃいそうだものね。』
申し訳なさそうな彼の苦笑いをあたしは今でも覚えてる。その隣のコタを睨むと、すこしバツが悪そうな、でもまるであたしがそう言われたのが当然とでも言いたげな表情でそっぽ向いていた。
あたしを名指しでブスだのデブだのなんて酷いじゃない?みんなで来てるのに...あたしはただみんなと一緒に持ってきただけだったのに...
『コタの馬鹿っ!なんでそんなこというわけ?』
酷いよ...こんなの、痛すぎるでしょう?デブだったらチョコも渡しちゃいけないの?
あたしは滅多に激高したりしないほうだった。デブって言われても、へへって笑ってるほど...勿論いつだって心では泣いていたよ?いちいち怒っていられないほどよく言われてたからね。だからあたしのことをみんなは大人しいとか、何言われても滅多に怒らないとか思ってたかも知れない。それでも幼稚園の頃には人並みに怒ってたんだよ?コタはそれを知ってるはずなのに...
『ふーこ、おまえ高望みしすぎなんだよ、良樹なんてさ。』
『酷い...コタなんか...あんなたなんか大ッ嫌いなんだからね!一生許さない!!』
あたしは持っていたチョコを思いっきりコタの顔に向かって投げつけた。運動神経の悪いあたしにしては珍しくそれはコタの顔面に命中していたらしい。でも既に駆けだしていたのでその事実は後で聞くまで知らなかった。

それ以来コタとは口もきいてない。他の女の子もそのことを聞いてコタを総スカンしてた。
あたしは、しばらくは泣いて、何も食べられなくて、でも残念ながら痩せなかった。
だけどね、デブだブスだって好きなこの前で言われた傷は一生消えないって思った。ずっと、ずっと消えない傷。恋をしても、もう絶対に告げちゃダメだって、一生思うだけの恋でいようって思ったの。だって恋はしちゃうんだものしょうがないんだもの!
心だけでも可愛い女の子でいたいから、だからあたしは...


「バイトしようかなぁ...ねえ、みんなも一緒にやらない?」
頑張って入った女子高も2年になって少し余裕が出てきて、あたしはそう口にした。もしかしたら運動以外ではあたしが一番ポジティブかも知れない。でも体型が原因で人前にでるのがあんまり好きじゃないあたしがこんなこと言い出すなんておかしいって思うでしょう?アキもタカも同じで人前にでる事なんて考えたこと無かったみたい。
「「バイト??あたしたちが??」」
アキとタカはすぐさま二重唱でオウム返ししてきた。もう、息ぴったり!
「だって...ミシンほしいんだもん。」
実はね、あたしの趣味は洋服作りなの。アクセサリーとか小物作るのも好きだよ。特に自分の服のサイズってあんまりなくって...横にあわすと縦が長く、縦にあわすと横が入らないからね。だから、自分が着たい服を自分で作るための材料費が馬鹿にならないんだもの。服装に無頓着なタカやアキの服も作ってあげたいしね。だけどその原動力になるミシンが先日壊れちゃって縫えないのが切実なんだよね。うちは女子校だけど進学校だから家庭科クラブとか無いのよ。だから自力で買うしかないんだ...最新型の欲しいしね。
「でもさふーこ、バイトってさ、やっぱ人前に出るだろ?」
アキが言いにくそうに言うからその後の台詞は自分で言う。
「そうだよ。でもあたし制服のあるとこはだめだなぁ...サイズないだろうから。」
「あたしだって、制服に合わないよ...肩幅すごいし、ごついのが目立ちまくるし。」
「私も。袖丈とか、あわない...」
アキに続いてタカも下を向いたままぼそっと言う。
「それにあたしはさ、おさんどんやんなきゃいけないから。それで少しだけおこづかいもらってるから出来ないよ、部活もあるし。」
アキは本当はスポーツ推薦で高校入れるほどソフトボールが上手いんだ。ピッチャーやってるとこなんてかっこよくて男らしいんだよ?今は試験前だから休みだけどいつもなら部活。だけど、スポーツ推薦でなく一般入学してる。それだけに縛られて学生生活送りたくないらしい。その理由がお隣にあるのは気が付いてたけど、そっか、お金もらってるんだ...
「わ、私も...母が許してくれないと思う。」
タカの家って厳しいんだよね。でもさ、3人の中で着飾ったら一番ましになるのが彼女だと思うんだ。168cmと高めの身長と信じられないくらいがりがりだけど、自信を持って立ち振る舞いして、その猫背と変な歩き方をやめればいいのに。あたしもどたどたとあるいちゃうけど、歩き方が一番綺麗なのはアキね。運動神経よくって、颯爽と歩くの!まるで宝塚だけど...
「わかった、あたし頑張ってみから、あたしでも出来たら、二人も頑張ってみようよ?」
あたしは地元の駅前でのバイトを探した。私立の高校までは遠いから、地元だと電車なくても自転車で通えるし、休みの日も出てきやすいって考えたの。
なんだかんだいいながらみんなもバイト先を探すの手伝ってくれるんだから、いい子達なんだから、本当に。
「あ、あそこは?ケーキ屋さん!!」
「だめだめ、あたしきっといっぱい食べて太っちゃうよ、アキ。」
そっか?と料理以外にお菓子作りも上手い彼女が残念そうに舌を鳴らした。
「じゃあ、駅前のファーストフード店は?」
「あそこの制服、スカート無茶苦茶短いよ...」
しーんとしちゃった。誰もが自分とあたしが着てるとこを想像したんだと思う。
「ダ、ダメだな、他は...えっと」
あたしを傷つけまいと必死になってるアキは可愛いんだよ。
「あ、ここは?」
タカが示したのはスーパーのバックヤードのお仕事だった。
「お洒落じゃないけど、制服も上だけだし、近所のおばちゃんとか多そうだけど、ふーこ昔からおばちゃん受けいいじゃない?」
「そうだよね、別にお洒落したくてするバイトじゃないし、かえっておばちゃんばっかりで安心かな??」
「うん、いいとおもうよ!」
そうだよね、やっぱり流行のファーストフード店でも可愛い子がいいに決まってるけど、実務的なバイトはあたしに一番あいそう。
早速面接受けてバイトが決まった。主婦達がでにくくなる夕方から夜にかけてや、土日の出勤は喜ばれた。だから週3日は5時から10時まで、土日はどちらか2時から10時まで入ることになって、主な仕事は商品出し雑用、忙しいときはレジにも入るって事だった。あまり人前にでたくないあたしにはちょうどいいかも。



「おはようございます。」
毎日が結構充実してると思うの。今までののんびりした高校生活とはちょっと違う感じ?夕方のバイトはきつかったけれども、これもミシンのためだし、今日は初めての土曜日のバイト、長時間だけど大丈夫かなぁ..ちょっと不安。
「おはようございます、あっ...!!」
お店のジャンバー着た若い男の子が挨拶の為に不意に後ろ向いたその顔を見てあたしは驚いた。
「コタ...」
衣笠孝太郎、通称コタ、保育所から小学校・中学校まで同じの同級生。あれ以来あうことが無くて、この先長いだろうあたしの人生の中で最も遭いたくない奴。
「ふーこ...」
コタがあたしの名前を口にした。何でココに居るの?ってバイトなんだよね...知らなかったんだけど、やだよ、これからも一緒なんて...
思い出してしまう昔の嫌な思い出。
あの、バレンタインの事があるまでは、そんなに仲が悪かったわけでもない。コタとはずっと学区が一緒で、腕白で、悪ガキで、暴れん坊だったけど、憎めない子だった。
その頃憧れの男の子の長谷部くんは、華奢で身長はあたしと変わらなくても、体重は倍ほど違ってたと思う。だからこそすごく憧れたんだと思うの。
無い物ねだりなのはわかってた。コタはあたしよりも背が高くってがっちりしてて、その分安心して話せてた。それまでは...よく『でぶ〜』なんてからかってきてたけど、好きな人の前で、あんなこという子だとは思わなかった。

「あ、さすがに5年たったら絶交は解除?」
昔と、同じだけど同じじゃない。男の子って、女の子より変わっちゃうんだよね。
声も、背丈も、からだつきも、顔まで...
これがコタ?ってぐらい、いい方に成長してると思う。体つきも引き締まってがっちりしてるし、身長も随分高そう。髪も少しだけ明るくしてるんだろうか?つんつん立ててちょっとお洒落だったりする。そう言えば男子の多い工業高校に行ったはずだけど、あそこは校則もゆるかったわね、確か。でも悪ガキっぽい顔立ちはあのまんま...よく言えば精悍になってるかな?
「かわんねえな、ふーこ。相変わらず、」
「な、馴れ馴れしく名前呼ばないで...」
思わず握り拳して睨んでた。思い出しちゃうんだよ、コタが目の前にいると、あの時のこと...あたしは相変わらず『でぶ』で、誰も好きになっちゃいけない、告白する価値もないって言われてる気がするんだもん。
それに、反則だよ?そんな、かっこよく成長してくれちゃって...あたしは、相変わらずデブでブタのふーこのまんまなんだから!!
「ごめん...柏崎さん。」
初めて名字で呼ばれた。
あたしは思わず下を向いた。すまなそうなコタの顔なんか見たくなかった。違う意味で...あんまりにも恰好良くなりすぎてるから、思わず全部許してしまいそうになってるんだもん。
「オレ、ココのバイトもう2年やってるんだ。今更辞めるわけにいかないんで、せめて、仕事中だけでも普通にさせてくれないか?」
やけに丁寧な言葉遣いだった。そっか、コタは成長したんだね。
「わ、わかったわ...衣笠くん。」
あたし達は他人行儀な挨拶を済ますと、それ以降、仕事の上でしか話さなくなった。
あたしが傷ついてること、コタはわかってるんだ。もう小学生じゃないし...
でもコタのせいで、あたしはあれ以来どんなに仲良くなった男の子にも気を許せなくなった。きっと心の中ではそんな風に、太ってるあたしを馬鹿にしてるんだって思ってしまうから...いくら恋しても、告白するのは無駄だって教えられたから。



なのに自分だけそんなにかっこよくなってるんじゃないわよ!
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