ふーこの恋 | |
でぶ★コンプレックス・7 | |
「ねえ、信じられる??」 あたしの呼び出しにすんなり来てくれたのはアキだった。 「すごいね、大学生の彼氏か〜」 「ま、まだ返事してないもん...」 それに、好きだって言われたわけでもなく、付き合おうかって感じで... 「でも、OKしたら付き合うんでしょう?その人のこと嫌いな訳じゃないんだし。コタのこと忘れるにはちょうどいんじゃないか?」 「で、でも、あたしなんかのどこがいいわけ?でぶだし、そんな可愛くないし。」 「それは三浦さんに聞かないとだけど、ふーこの本質見てくれたんでしょ?カレは。」 「そうだと思うけど...」 でも、男の人ってほっそりしてて可愛い子が好きなんでしょう?あたしみたいなの連れて歩くのも嫌だと思うんだけどなぁ。 「で、どうするの?付き合うの?付き合わないの?」 アキははっきり聞いてくる。あたしが優柔不断だから、余計に心配してるのかもしれない。 「どうすればいいと思う?」 「あたしに聞くんだったら答えは簡単だよ。相手が嫌なら付き合わない。少しでも好感持ってるなら付き合わなきゃ、こんなチャンス無いよ?」 「んーそうなんだけど。」 まだ、怖いんだよね。いつかいわれちゃいそうで... 『でぶは嫌いだ!』って 男の子が怖いの、まだ治ってなかったんだな、あたし。 「明日の朝迎えに来るんでしょ?その人。」 「そうだけど...」 「その時に返事とかしないの?」 「考えていいよっていわれた...」 あのあと、三浦さんはすごく優しい声で言ってくれた。 『もしかして、付き合ったりしたこと無かった?だから、怖いのかな?』 『えっと、そうです。』 『じゃあ、無理にすぐ答えなくて言いよ。俺だってあそこのバイト続けたいし、ふーこちゃんとこのまま付き合わなくても仲良くしていきたいからね。もし、ふーこちゃんさえよければ、こうやって一緒に帰ったりするヤツが居るだけでも楽しくないかい?俺はそうだからさ、できたらそうやって長く続けたいって思ってる。バイトも、ふーこちゃんとも。』 その時ふと脳裏に浮かんだ。 あそこってあたし以外お姉様方が多くって、若い子が続かないんだよね。もし、あのまま夏芽ちゃんがいたら、三浦さんはもしかしたら... そう思ってしまうと、また頭の中がぐるぐるしてしまう。 「ふーこが悩むのも判るよ。あたしだって、急にいわれたって信じられない気がするよ。遊びとか、気楽に付き合うって、あたし達みたいにコンプレックス持ってたら出来ないものな。傷つけられるの怖いからさ。それも、好きな人にだったらきっと耐えられない...」 アキの言葉に頷く。その通りだ。もうこれ以上傷つきたくない。 だけど幸せにもなりたい。人ってどん欲だなぁって思う。 けれどもこんなあたしと付き合って見たいって言う人は希少価値だよね?やっぱりいい返事するべきだよね。三浦さんなら贅沢すぎるぐらい優しいし、いい人だし... フッてコタの顔が浮かぶ。 ダメダメ、いくらコタの顔が好みに育ってたって、思い出してちゃダメだよ...昔のいがぐり頭の時代とか、坊ちゃん刈りしてた頃とか思い出すんだ。コタとの思い出、全部忘れるって決めたんだから。 「明日、返事するよ。」 「OKの?」 「たぶん、そうなるかな?」 「タカには?」 「明日報告するわ。」 「そっか、じゃあ、そろそろ帰るかな?後かたづけ帰ってからしますって出てきたんだ。」 「あ、隣の?」 「そ、だから家族はあたしが出歩いてるなんて知りません。」 笑ってそう言うんだね。アキの家はどっちなの?アキのことだからおばさんとも異母弟妹とも上手くやってると思う。おとうさんにも心配なんてかけてないはず。だってアキはおとうさんも大好きだったもんね。 でも、新しいお母さんが来て、台所に入らなくてもいいよっていわれたときから、おとうさんの身の回りの世話しなくてよくなってから、アキは寂しくなったんだよね。 「そこまで送るよ。コンビニ行きたいし。」 あたしは財布と携帯だけもって、アキの後を追って外に出た。 「アキ?」 自転車もださずに立ち止まったままのアキがゆっくりと振り返る。 「来てるよ、コタが。」 くいっと顎をやる先にはまたまた塀に寄り添ったコタの影。夕方の雨はすっかり止んでる。 「どうする、一緒に居た方がいいか?」 少しだけ悩んだ。だって、一人では耐えられないかも知れない。どんな理由で来てるとしても。 だって、予想着かないよ? 「うん、居て、アキ...」 「牧野、悪いけど、二人で話したいんだ。」 結構真剣なコタの声。 あの時、以来だなぁ。ここでコタが待ち伏せてて、あたしが逃げ出して。 つい昨日のことのようだけど、あれはまだ8月になる前で、今はもう8月の終わり... 「いいの?ふーこ。あたしはふーこを傷つけるつもりなら帰らないよ。孝太郎。」 またアキちゃんたら凄んじゃって。 「そんなつもりはない。オレは...もう二度と楓子を傷つけないって、そう決めていたんだ。それは時としてうまくいってなかったけれども。」 少し下を向いた後、コタは顔を上げてあたし達の方に歩いてきた。 「借りるぞ、後でちゃんと送り届けるから、そこの公園まで連れていくだけだ。ここじゃ、話せないだろ?」 確かに人通りのあるところだけど...って言ってる間にコタがあたしの腕を掴んで歩き出す。 「え?ちょっと、待って!」 「うるさい、騒ぐなよ。人が出てくるだろ?ここらはさ。牧野も心配だったら着いてくればいい。けど、オレは牧野には聞かせたくない。楓子にだけ言いたいことがあるんだ。」 後ろをみて、睨んだような目をしたコタにアキはふって笑った。 「判ったよ。ちゃんと返してくれよな?あたしの大事な友達なんだからな。ふーこ、悪いけど家に帰ってるから、何かあったら電話して。」 そう言い残してアキは自転車に乗っていってしまった。 「うそぉ、アキ〜〜?」 あたしは引きずられるようにして公園へと連れて行かれる。入り口の自販機でミルクティを買ってあたしに渡したコタは、そのままベンチに座るようにあたしに示した。 「な、なんなのよ...」 「今日、スタンドに来たよな?」 「う、うん。」 コタは手にした缶コーヒーの蓋も開けずにコロコロと手の中で頃がしていた。 「アレは、誰?」 いえ、それはあたしが聞きたいぐらいだよ?なぜあそこに居たのかって。 「誰って、コタの後にバイトに入った三浦さん。」 「バイト?大学生か?」 「そうだよ...ね、それよりなんで、」 「あの人、何度か女の人乗せてうちのスタンドに来るよ。」 「は?」 あたしが聞きたいことも聞かせて貰えないまま、コタは話を続ける。 「それが、どうかした?」 今まで女の人と付き合ったこともあるって聞いてるし、よく大学のメンバーの足代わりに使われたりするらしいって聞いたけど...あの、フェミニスト振りだと、女友達も多いと思うの。 「だから、もし、あいつと付き合うんならそれ知っておいた方がいいと思って...オレ、バイトが終わってから飛んできたんだ。」 そっか、友達として心配してくれたんだね。 「まだ、付き合ってないよ。」 「え?そうなのか?」 まだ、だけど... 「優しくていい人だよ、三浦さん。お姉様方も褒めてる。今日は雷鳴ってたから送ってくれたんだよ。」 「そっか、ごめん、オレ勘違いして...」 勘違いじゃなくなるかも知れないけど。あたしはそれを言うべきか悩んだ。まだ決めたことでも何でもないことを口に出すのは何だか負け惜しみみたいでいやだった。 「でも、たぶん付き合うかな?今日言われたんだ。あたしみたいなの、ちっとも良くないのにね、物好きな人だと思うんだけど...」 言わないでいようと思っていたのに口にしちゃうあたしって、きっと、惨めになりたくなかったから。 「な、なんだ、そっか...楓子のいいところ判ってくれてるんだよな?イイヤツそうだし、よかったな、楓子。」 さっきからあたしの名前間延びした呼び方してないなって、気が付いた。 「あ、それより聞きたいのはこっちだよ?コタ、駅前でバイトしてたんじゃなかったの?」 「ああ、辞めたんだ...」 「な、なんで??まだ1ヶ月もたってないよ??」 「居る必要無くなったから。」 「え?」 「夏芽とバイトに入っても、同じローテーションなんてなかなか無理だからさ、最初は良く待ち合わせてたけど。オレが、夏芽に手ださなかったから、その間に夏芽はそこのバイトのチーフと付き合いだしたんだ。だから辞めた。夏芽の我が儘ではじめたバイトだから、オレにはなんの義理もないしね。」 「手、ださなかったって...?」 「スーパー辞めたあと、夏芽はオレとつきあってるつもりでいたんだろうな。休みは逢いたがるし、帰り道では抱きついてくるし、キスしろとか言ってくるし...だけど、オレはそんな気になれなくて、待ってくれって言ってる間に、オレのこと相談してたチーフと出来ちゃったらしいんだよ。まったく身勝手なヤツだよ、本当に。」 「付き合ってる、つもり?って、付き合ってたんじゃなかったの??夏芽ちゃんと!」 衝撃!何だったの、じゃあ、あたしの努力は? 「はあ?オレはつきあってるなんていった覚えはねーぞ。夏芽がああやってオレを追いかけてくるのは学校でも当たり前になってたし、元々誰にでもああやって好き勝手するヤツだし。」 まって、確かに夏芽ちゃんは付き合ってるからって...もしかして、嘘つかれてたの? 「あたし、てっきり付き合ってるんだって思って...」 「誰がそんなこと言った?」 ちょっと怒った顔してコタがあたしの肩を掴んだ。 「夏芽ちゃんが...」 「アイツ...ったく、嘘ばっかいいやがって、しまいに楓子のことも傷つけて...だから、楓子に嫌がらせしてるのかと思って、スーパー辞めろって言ったら、オレが辞めないと絶対辞めないって言い出してよ、オレも辞めるしかなかったんだ。楓子をあれ以上傷つけたくなかったから。」 「コタ...」 「ま、それはオレにも責任あったことだから。あの後、楓子に謝って、楓子はそれでも夏芽を大事にしろみたいなこと言うから、だからオレ...けど、大事にはできなかった。楓子を平気で傷つけたアイツのこと許せなかった。オレが、同じことして昔、楓子を傷つけたのに、また同じことやりやがって...オレは自分が許せなかったんだ。だから、よかったな...楓子のことちゃんと好きになってくれる人が出来て。」 「えっと、それは、」 まだ返事してないんだよ、あたし... 「これだったら牧野がいても良かったな、ごめん、謝っといて。」 コタは立ち上がった。 「悪かったな、いらん心配しちまって。その、三浦さんに大事にして貰えよ。楓子はその価値があるんだから、な?」 「コタ、あたしね、」 「先に帰るな、じゃ!」 駆け出してく、コタの背中。 あたしが追いつけるはずもなく、あたしは言いたいことの半分も言えずにうずくまった。 見栄なんか張るんじゃなかった。 もう夏芽ちゃんとは付き合ってないって判ったけど。だけど、どうしようもないことなんだよね。 コタは、あたしに悪いことしたって、今でも思ってるんだ。だから気にしてくれてるだけなんだけど... あたしは一瞬期待した自分が恥ずかしかった。さっきまでは三浦さんと付き合う気になってたのに。 あたしはもう、自分がどうしたのか、自分の気持ちすらわからなくなってしまっていた。 |
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