ふーこの恋 | |
でぶ★コンプレックス・8 | |
「じゃあ、コタは夏芽って子と付き合ってなかったってことか?」 アキ、視線が怖いよ。 「うん」 「じゃあ、あの日わたしたちがキスしてるのを見たのは、コタじゃなかったの?」 「うん、たぶん今付き合ってるバイト先のチーフさんだろうって、コタが...」 タカ、呆れないで... 「なのに、三浦と付き合うって言っちゃったのか?」 「...うん」 「「ふーこ!!」」 二人に散々呆れられた。 自分が惨めになりたくなくて、付き合うかどうかもまだ決めてない人とのこと口に出してしまったこと。 「コタさ、ふーこのこと好きだと思うんだよ。」 「あたしもそう思う。」 二人がそう言うけれども、あたしにはそれだけは信じられなかった。 「違うよ、コタはあたしを昔傷つけたことを気にしてるだけで...」 「そうかな?」 「そうだよ。」 アキは断言するけど、あたしにはそんなこと信じられない。恋することは何とか出来ても、そんな自惚れとっくにあたしの中にはない。 いくら気にしてても、コタはあたしのことは贖罪の相手にしか思ってないんだから。 「で、どうするの?三浦さん。」 「う、ん...」 あの翌日、三浦さんは約束通り迎えに来て、次の日も同じ時間だから迎えに来るって言われて、あたしは断れないままだったから。 「ふーこちゃん、送ってくよ。」 「あ、はい。」 今日は遅くなるからって、朝から送ってもらってた。だから断ると徒歩で帰らないといけない。 「ね、どう?考えてくれた?っていうか、こうやって送り迎えしてるのがOKみたいなもんだよね。」 「三浦さん、あの...」 このまま、三浦さんと付き合う方がいいに決まってる。次なんてあたしにはきっと無いだろうから、選り好みは出来ないって思ってた。だけどアキもタカもあんまりいい顔しないんだよね。 「な、ちょっと寄っていかないか。」 「え、どこに...?」 いつもの道を反対に曲がった。車は展望台に向かう道。すぐ近くにある見晴らしのいい駐車場。 「夜景を見ようよ。この時間だと、キレイだよ。」 「あ、でも、早く帰らないと両親が心配します。今日は三浦さんに送ってもらうからって言ってきましたから。」 「え?そうなの。じゃあ、少しだけ。」 ニッコリ笑う三浦さんの笑顔は優しいけど、あたしの心の中は不安だった。 帰り道にコタと立ち寄る公園とは全く違う。あたしは大事なことを忘れていたのではないだろうか? 三浦さんは男の人で、あたしはいくらデブでも女で、車は動く密室だってこと。 「怖がらなくてもなんにもしないよ。返事ちゃんと聞きたいだけなんだ。」 あたしはその言葉に少しだけほっとした。 車は広い駐車場に入った。あたしはサイドブレーキを引いてハンドルから手を離す三浦さんの方を見ることは出来なかった。 「ふーこちゃんがさ、失恋したって店長から聞いたんだけど、違ったのかな?」 「え?」 「なんていうかな、オレってそんなに深く考えてふーこちゃんに申し込んだわけじゃないんだ。失恋したって聞いて、みてたらまあ、いい子だなって思ったから。」 「別に失恋したとかって訳じゃないです。」 告白して失恋したわけじゃない。それ以前の問題だっただけ。 「そうなんだ?じゃあさ、軽い気持ちでいいから付き合わない?」 軽い気持ち? 「付き合ってみないとわからないだろ?好きになるかもしれないし、ダメかもしれない。ダメだったら別れてバイト仲間に戻ればいいだけだしさ。楽しいじゃない?バイト先にカノジョがいたらさ、張り合いもでるし。」 そんなものなんだろうか?あたしにはなかなか理解できないのだけれども、世間一般ではそんなものなのかもしれない。この機会を逃したら二度とないかもだし... 「わかりました。」 あたしは三浦さんと付き合うことにしてしまった。 確かに楽しいかも知れない。 バイトに行くのに迎えに来て貰って、送って貰う。バイト先で顔を合わせては笑って、たわいもない話しを繰り返して... これがコタだったら、なんて三浦さんに失礼なこと何度も考えてしまったけど。 選べるような立場じゃないのに... だから、せめて三浦さんの側にいても恥ずかしくないように、少しでも綺麗な恰好して、ちょっとだけスッキリした体型維持するように努力していた。 でも出歩くことなんか滅多になかった。お互いバイトの時間を詰めて入れてたし、うちは門限があるし。デートって言っても早めにバイト終わったときのドライブぐらい。たまにドライブスルーやファミレスでお茶したり。 そんなかんじで、付き合いはじめて1ヶ月経っていた。 その日もドライブの後、いつもの展望台に来ていた。 たわいもない話しに笑ったり、店長が最近頭が薄くなったのを気にして、増毛のパンフレット見てただとかそんな話で盛り上がれる。同じバイト先ならではだった。 だけど、ふと会話がとぎれた瞬間、運転席側から伸びてきた腕があたしの髪に触れた。 いつもならさりげなく逃げたり、『もう帰らなきゃ』といって送ってもらおうとしたりしてきた。 だけど今日は逃がして貰えないみたいだった。 「ふーこ、今日はだめだよ。」 頬に滑るその手に、びくっと反応してしまった。 「でも、もう帰らなきゃ...」 「帰さない。もうつきあい始めて1月は経つんだよ?」 今までにない強引な展開で、身体が一気に緊張する。 「嫌いじゃないんでしょ、俺のこと」 顎に手をかけられ、三浦さんの方を向かされた。あたしが頷くと嬉しそうに笑ってる余裕の彼。 「だったら、キスぐらいで逃げないで。俺、自信なくしちゃうよ。」 きっと慣れてるんだろうな、キスぐらいって。あたしなんかもう心臓破裂しそうなのに... そりゃ、つきあい始めたら、キスとかあるだろうっていうのは判ってた。でも...踏ん切れなかった。だってお互い『好き』の言葉が無かった気がするから。 「キス、するから」 ダメだって言えないし、していいって頷けなくて、仕方なく目を瞑った。 唇に触れる、すこしかさっとした三浦さんの唇。薄目で、厚みがないのは判ってたけど、あたしの唇って体型通りぼってっとしてるからその差が気になった。 「んっ??」 いきなり唇にぬるって...し、舌??あたしは思わずその瞬間、唇を食いしばっていた。 「だめだよ、力抜いて?口開けてよ。そっちの方がキスは気持ちいいんだから。」 「だ、だって!は、初めてだし...」 そんなこと言われたって、ついこの間まで恋に恋する乙女なあたしとしては、キスって言うのは触れあうだけのモノで、しょっぱなからべ、べろちゅうーなんて出来ないよ! 「かわいいね、でもそんなとこで止まってたらいつまで経っても前に進めないだろ?他の女子高校生なんてずっと先まで経験しちゃってる子たくさん居るんだからさ。」 他の経験豊富な女の子達と一緒にしないでください!! がたんって、シートが後ろに倒された。 「ええ??」 覆い被さってくる三浦さんは、いつもの三浦さんのようで、そうでなかった。 「だいじょうぶ、気持ちよくしてあげるから。」 再び唇塞がれて、む、胸に、手がっ!! 「んっ...やっ!」 必死になって暴れる。だけど来ていたカットソーをまくり上げられて、ブラの中にも手が入り込んで来た。 首筋に三浦さんの荒い息がかかる。 ぞわって、した... 「いやっ!!」 泣きそうになっていた。身体に自信がない分、いきなり触られて、怖くなってしまった。 こんな身体...見られるのは恥ずかしい。もし、呆れられたら...馬鹿にされたらどうしよう??そんな気持ちでいっぱいだった。 「うっ...」 あたしは溢れてくる涙を止められなかった。怖くて、抑えられなくて、震えていた。 「ちっ」 微かに舌が鳴った。いつもの優しい三浦さんじゃない... 「あのさ、男とこんなとこまでついてきて、身体にも触らせないってどういう事だよ?付き合ってるんだろう、俺たち。」 怒らせたんだよね、あたし... 「ご、ごめんなさい...」 「そんなに深く考えなくていいんだから、付き合ってりゃキスしてエッチして、気持ちよくならなきゃ意味ないだろ。そんな、出し惜しみしなくったって、暗いから見やしないよ。」 ちょっと冷たい言葉だった。 初めてなんだよ?男の人に身体触られるのも。なのに... まるで嫌がる権利もないみたいに言わないで欲しい。ただでさえ、あたしは自分の身体にコンプレックス持ってるんだから、それも、自分でもどうしようもないほど、強いもの。 どうしようもないもの。 嗚咽が漏れる。こんな時に泣くのは、可愛い子なら許されるだろうけど、あたしみたいなのが泣いてもうっとおしいだけって、判ってるけど...でも止まらない。 「はぁ、わかったよ。」 ため息をついた後、三浦さんはあたしを家まで送った。 その間、お互い一言もしゃべらなかった。 帰ってすぐにアキに電話した。 今日はすぐには出てこれないらしくって、あたしは理由を言わずに後で来てねとだけお願いした。こんなの、言えないかも知れないけど、怖かったんだ、身体が、すごく怖かった。だから、アキに側に居て欲しいって思った。一人が怖かった。 「ふーこ、珈琲入れたから降りてきなさい。」 部屋に籠もってたら、母親が呼びに来た。きっと何かもらい物のお菓子かケーキがあるんだ。自分一人で食べて太るのがイヤだからあたしを道連れにしようとするんだ、うちの母は。 美味しいチーズケーキを頬張って、少しだけ落ち着いてきた。 よかった... あのままアキに逢ったらなに言われるか判らなかったから。うちの母親は、呑気だから問題外。 「なあ、さっきガソリン入れてきたんだけどさ、」 父親が外から帰ってきて、二人して食べてるケーキを見て顔をしかめてた。甘いものが嫌いなうちの父は珈琲だけくれと母にお願いしていた。 「いつものスタンドでな、バイトしてる、ほら、ふーこと同級生の衣笠さんとこの、孝太郎くんだったっけ?あの子がさ、お客と喧嘩して大変だったよ。」 「え?」 コタが?喧嘩... 「ああ、なんか白黒ツートンの車の大学生みたいなのととっくみあいって言うか、孝太郎くんがいきなりつかみかかったらしくって、えらい騒ぎでな。って、ふーこ?」 「ちょ、ちょっと出掛けてくる!!」 「おい、こんな遅くから、待ちなさい!」 部屋着のまんま、あたしは家を飛び出して自転車に飛び乗った。 嘘でしょう?白黒の車って三浦さんじゃないの?まさか... 不安を吹っ切るようにあたしはペダルを漕ぎ続けた。すぐ向こうの通りのコタの家まで。 自転車は無かった。 きっとまだバイト先なんだろうか? あたしはコタの家の塀にもたれて、コタが帰ってくるのを待っていた。 「え?ふーこ...」 顔を腫らしたコタが自転車を押しながら帰ってきた。 「なんで、いんの?」 「さっきお父さんから、コタが喧嘩したって聞いて...」 「ちょっ、こっち!」 自転車を塀に寄りかからせて、コタはあたしの腕を掴んで歩き出した。 しばらく歩いて、いつもの公園。この辺じゃ公園はココしかないから。 「楓子!おまえ、なに考えてるんだ??」 「え?」 いきなり怒鳴りだしたコタに、あたしはあんぐり口を開けて驚くしかない。 「男の車に乗ってうろうろして、ただで済むわけ無いだろ!!」 そりゃそうだけど、なんでコタがいきなり怒り出すわけ?? 「男なんて、最終的にはヤリたいんだよ!おまえ判らずに付き合ってたのか?」 「な、なによ...コタには関係ないでしょ?なのに、なんであんたが三浦さんと喧嘩するの?」 「それは...あいつは、やめとけ!あんなやつ!!」 「コタ?」 「楓子の心の傷もしらないで...平気で触れようとするからだ!なのに、あんな...」 「何かあったの...?」 しばらく下向いて考えていたコタが顔をあげて真剣な顔して教えてくれた。三浦さんがコタのバイト先にガソリンを入れに来たとき、携帯で誰かと話してたのを。 「あいつ、楓子のこと遊び相手みたいに言ってたんだ。『あんな身体してる癖に、もったいつけて触らせないんだ』とか『性格がいいから体型は我慢してやってるのに、まいった』とか言って...オレにはそれが楓子のことだってすぐ判った。だから、オレ、許せなくて...気がついたらアイツに殴りかかってた。」 「コタ!!」 「いいんだ、オレが許せなかっただけだから。楓子は恐がりだから、特に身体のこと。オレも言葉で傷つけたからよくわかってる。すごく悩んでることも、人に見られたり、触られたりがだイヤだって事も、知ってる。なのに、そんな楓子の気持ちも知らずに、そこらの気楽に付き合う女子高生みたいな扱いしやがって...楓子は大事にしてやらないといけないのに...」 コタの拳が震えていた。何かを耐えるように握りしめられていた。 「あいつは、楓子を判ってない!あんなヤツやめとけ、オレの方が、まだ楓子を大事に出来るんだ...」 真っ赤な顔して、あたしの方を見ないようにしていた。 「ごめんな、たぶんあいつオレが誰だか判ってないから...楓子がアイツのこと好きなら止めないから、わるかったな...」 コタが背中を向ける。 「まって!!」 立ち去ろうとするコタにむかって、あたしは思いっきり声をあげて呼び止めていた。 |
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