シルビアの国へ戻るまでの記憶は俺にはない。その日の晩から高熱をだしていたらしい。気がついたときにはシルビアの計らいで城中に部屋をもらい、手厚く看病されていた。皇女の命の恩人と、医師・薬師が総動員されたらしい。
シルビアが国に帰るなり、ドンによって皇女の命を狙った国王の親族一味は捕らえられたので(おばばが調べていたらしい。)、ガーディアンAチーム一行は国へ帰っていったが、俺の副であるガルディスは傷の治療(鎧のおかげで、見かけより傷は浅かったらしい。)と残務処理のために残り、おばばは引き続きシルビア皇女の専属で警護に当たるらしかった。おばばによると破格の契約金だったらしい。そして、リィンが俺をグロウに乗せて連れて帰るために残ってくれていた。名目上は引き続き皇女の警護だったが、おばばのように長期ではないらしかった。
意識が戻ってからもかわるがわる人の出入りする俺の部屋は結構にぎやかだったが、想う人はなかなか現れてはくれなかった。
「ジェイク殿、どうか傷がいえるまでゆっくりしてくだされ。国王が病の床にある限り、シルビア様の命の恩人であるあなた様は国賓に値すると思っております。父君のヒルブクルス卿にも親書を送らせていただいております。」
国王亡き後はシルビアを助けて国を護っていくであろう実直なこの大臣は、シルビアの器を理解しいるらしく夫君選びに躍起になっているらしい。現在の皇女の想い人である俺を取り込もうと日参していた。素性が知れてる分無茶できないのがつらい。一応お得意様なのだから。
親父殿から手紙でここに一生居る気かと言ってきたので、頼むから早く帰らせてくれと、珍しく泣き言を書いてしまった。
「ジェイク、なにか欲しいものはございませんこと?私の命の恩人であるあなたになんでもして差し上げたくって。よろしかったら、時間の許す限り看病させていただきたいわ。」
やたらとベッドに擦り寄ってくるシルビアには痛みを演じて、さりげなくお引取りいただく毎日だった。うるさくって傷口がまた開きそうになる。
「よう、もてるなぁ色男!」
ガルディスが残務処理をすべて終えてあいさつしにやって来た。彼の傷は見かけだけで、すっかり治っていた。
「俺はそろそろ帰るぜ。次の仕事もあるしなぁ。ジェイクは当分ここにいるか、帰ってもしばらくは内務勤務だぜ。」
へへへとわらって、俺をこずいてくる。歳は一回りぐらい上だ。いつも弟のように扱われてしまう。まぁいいことも悪いこともいっぱい教わった兄貴分だからな。だがいつも俺のサブにまわってくる。うすうすは気がついていたんだが、親父様かじい様がお目付け役によこしてるんだろうってことは...。
「なぁ、どうだった?ここに例の国の情報らしきものはなかったか?」
俺は彼に銀の国の情報収集を頼んでいた。動けるもんなら自分で調べたいのだがそういう訳にも行かない。
「ここの図書館にもなかったしなぁ、少しさぐりも入れては見たが、おおっぴらに聞くわけにもいかんからなかなかな...それはそうとあの女剣士さんは来るのか?」
嬉しそうに聞いてきやがる。俺はため息混じりに首を振る。
「なんだ、てっきりお前さんの側にいたくって残ったって思ってたが、違ったのかな?」
「別に、忙しいんだろ。」
俺はちょっとすねてたかもしれない。意識が戻ってから一度もリィンの顔を見ていない。もっともシルビアの目もあって近寄れないのだろうが、それでも心の底では待っているのだ。
「まぁ、何度か様子を見に来ていたよ。ジェイクの意識が戻るまではな。そのあとは安心しているらしくってな、たまに様子は聞きに来てるらしいがな。」
「本当か?」
「あぁ、どうせ俺は明日発つからな。そしたらお前さんを連れて帰れるのはリィンだけってわけだ。」
ガルディスが似合わぬウィンクをする。
「最後までお付き合いして邪魔してやってもいいんだがなぁ、あの冠竜には俺は乗れそうにないしな。邪魔にならんように先に帰るわ。帰ったら大至急戻って来いと伝令を飛ばしてやるから安心しろ。あのうるさい皇女さんも上からの命令を無視したりしないだろうしな。」
その時ドアのノックの音がした。
「ジェイク?」
「おっと、噂をすればだ。」
じゃあなと、ガルディスはにやにや笑いながら部屋を後にした。リィンが入れ替わって姿を見せた。
「起きてていいのか?」
「あぁ、リィンは今いいのか?」
「うん、とりあえず私もあと三日で契約切れなんだ。珍しく今日は休暇をもらってしまった。彼がなんか言ったのかな?」
彼とはガルディスのことらしかった。あいつは何でこういうことには気が回るんだろう?見かけとはえらい差だ。
「大臣の方から命の恩人の一人である私にも休養だってさ。休養って言われてもな、知り合い居ないし、部屋に居るのももったいない気がして、あとはここしか来るとこなくって...元気そうで安心したよ。」
リィンらしく窓際にもたれて腕組みしている。窓からの光が逆光になってリィンの顔がよく見えなかった。
「なぁ、リィン。こっちへこないか?」
俺はベッドの端をぽんぽんとたたいた。ちょっとだけ眉を上げてみせたもののリィンは苦笑いしながらこちらへ寄ってきた。
「しばらく顔みてなかったからな、ゆっくり見せてくれよ。」
城内であるために、リィンは軽装で野外のときの装備は解いていた。リィンはゆっくりとベッドに腰掛けた。身体を起こして座っている俺の正面へだ。俺はそっとリィンの黒い髪を引いて銀の髪をあらわにした。リィンはたじろぎもせずこちらをじっと見ていた。
「あぁ、やっぱり綺麗だ。」
俺はリィンの銀の髪のひと房をそっと手に取りくちづけた。
「今日は逃げないね?」
「うん、平気みたいだ...」
「リィン...」
そっと肩を引き寄せる。リィンのアメジストの瞳はじっと俺を見ている。
「少しの間瞳をとじてくれるかい?」
「こうか?」
素直にもリィンの瞳は閉じられた。
「...!」
そっと唇にふれた。リィンが怯えたりしないようにそっと。
イラストByまっき〜
「ジェイク...」
「怖くないか?」
「ん、大丈夫みたい...」
リィンは軽く身体を預けてきた。
もう一度唇にふれてみる。今度はもう少し深く...
氷を溶かすように。
Fin
あとがき
リィンジェイクシリーズ、氷の花編最後までお読みいただいてありがとうございました。つたない文章で恥かしいですが、初めての作品は思いつくまま描き始め、あっという間に終わってしまいました。まだリィンの出生の秘密もわからないままで、とんでもなく長くなりそうだったのですが、また近いうちに続編を描きたいと思っています。(続編銀の王国完結してます〜)
へたくそですが、ちょっとでもきゅんとしたり、わくわくしていただけたら嬉しいです。
もしも感想などいただけたりするとホントに感激です!2002.5.28up小説検索サイトのランキング投票です。
ちょっとでもよかったな〜と思われる方クリックしていただけると嬉しいです♪