ずっと、ずっと...〜番外編〜       <和兄と彼女>

〜恋にはまだ遠い...〜

「和せんせ、今年も海連れてってくれるの?」
「ん、あぁ、1学期の成績が上がってからな。」
「ほんとに?やった〜!」
和せんせに教わりだしてからもう1年がたった。あたしの周りも随分と変った。
成績はあがった。食事をきちんとするようになったので授業中も集中できる。
ママは相変わらずだけど、料理を作ってたら、ちゃんと食べてくれるようになった。たまに家にいることもある。そんな時は二人で食卓を囲む。あたしが一方的にしゃべってるだけだけど、ちゃんと聞いてくれている。
パパも相変わらず帰ってこないけど、たまにメールが来るようになった。和せんせの事を聞いてきたのでちゃんと答えたら、何処で調べたのか、先生のところに会いに来たそうだ。真名海の事をよろしくと、筋違いなのはわかっているけど頼みますと、何度も頭を下げて帰ったそうだ。
身長も10cmは伸びた。体重も増えたけど、胸もちゃんと膨らんできて女の子らしい体型になってきたと思う。精神的にも落ち着いてイライラしなくなった。
だからかな?学校でも友達も出来たし、告白も何度かされた。断ったけど。
今年の海は一年前のスクール水着じゃなくて、ビキニを買った。ちょっと胸が大きく見えるパッド入りっていうやつ。友達の瑞希のお姉ちゃんがそういうの買ったって教えてくれたんだ。試着してみたけど、鏡に映ったあたしはもう去年のあたしじゃなかった。色白でそれでもまだ細身の身体はまだまだがりがりだけど、胸も膨らんで、腰も張ってきたし、そこそこメリハリも出来てる。
こんなの見たら和せんせ驚くかな?大人になったって思ってもらえるかな?

「友達できたんなら誘ってもいいよ?男友達とかも一緒でも大丈夫なようにワゴン借りてきてやろうか?」
「え...」
ふたりじゃだめなの?去年みたいに二人じゃいけないの?
「聞いてみる...」
結局一回和せんせを見てみたかったという瑞希と、もう一人の友達の茉莉、それからそれを聞きつけた茉莉のBFの敦志くんとその友人景山くんと園崎くんの合計6人で連れてってもらうことになった。
「和せんせ、人数余っちゃうからせんせも彼女連れてくればいいのに...」
「ああ、いいんだってば。あいつアウトドア嫌いだから...」
食事の後もぼうっとタバコをふかしてる。
珍しいな、和せんせがタバコ吸うなんて...

「いっやっほう!」
男子達が奇声を上げて水辺に駆けて行く。
「おう、若いなぁ。」
和せんせはパラソルを立てながらサングラスしたまま彼らを見てた。
「せんせ、年寄り臭い言い方だね。」
「そうか?ほれ、真名海も行って来いよ。瑞希ちゃん呼んでるぞ?」
「うん...」
なんか変だな?和せんせ...ここんとこ特に。タバコなんて吸いだすし、似合わないサングラスなんて掛けちゃって。
「志麻さんの従兄弟のお兄さんてかっこいいね。」
「そうかな?」
景山君が親しげに話しかけてくる。和せんせは一応従兄弟で家庭教師ってことにしてある。でないとみんな出てきにくいって瑞希が言うから。あたしは別にどっちでもいいんだけどね。
「俺ら男からしてあの身体(がたい)は憧れるよ。」
サーフタイプの水着を着た和せんせは上半身まっちょですごい迫力だった。おなかは出てないんだ。それは去年から知ってる。
「泳ごっか?」
誘われて断るのもおかしいからTシャツ脱いでくるといってパラソルまで戻った。
「あぁ、そうだな。俺が悪かったんだ。仕方ない。...わかってるよ。じゃあな...」
和せんせ...携帯の電源切ると後ろにごろんと寝転がった。右腕を顔に当てて...泣いてるの?
そっとTシャツをシートの上に置こうとした。
「真名海か?」
「うん...」
その腕を頭の後ろに回してこっちを見た。泣いてなんかなかった。すっごく優しい顔で私を見てる。
「ほう、おにゅーの水着だな?そうやって見てたら中二には見えないなぁ。だめだぞ、そんなんであの同級生を悩殺したら。」
「悩殺なんかしないよ。ね、似合う?」
「あぁ、似合うよ。去年はがりがりのぺったんこだったのになぁ。」
「和せんせが健康に気を使ってくれたからね。ちゃんと成長できました。」
ちゃんと見てくれてる?あたしの事。1年前よりもずっと大人に近づいたあたしの身体。心も、膨らんでもう弾けそうなぐらいだよ。
でもせんせには彼女いるし、あたしはせんせの妹もどきの立場から動けないから...
「景山くんと泳いでくるね。」
そう言い残して海に向かう。気になるのはさっきの電話...ケンカでもしてるのかな?
海の中ではすっかりペアが出来上がってて、瑞希も園崎くんと浮き輪で遊んでる。景山くんも浮き輪を用意して待っててくれたみたい。
「わあ、志麻さんてすごくスタイルいいんだね。すごく似合ってるよ。」
「そう?」
やだな、じろじろ見ないで欲しいのに...和せんせにならいくら見られても嬉しかったのに、景山君に見られて少し嫌になる。ほかの子が一緒ならビキニになんかするんじゃなかった...。とりあえず浮き輪に捕まって遊んでた。瑞希たちとも合流する。茉莉と敦志くんはもうらぶらぶモードでこっちには寄ってこない。
「志麻さん、僕らも沖の方へ行ってみない?」
「あたし喉が渇いたから、ジュース飲んでくる。」
「じゃ、俺も...」
そういってまた景山君がついてくる。一人にさせて欲しいのに。
ジャブジャブと膝の深さのところを歩いてるとふいに足に痛みを覚えた。
「痛!」
見る見る間に足元に赤い色が広がる。硬いものを踏んでしまったみたい。貝殻かな?やだ、足切ってる...
「だ、大丈夫!志麻さん。」
どうしよう、とりあえず海から上がろうとした時、身体が浮いた。
「馬鹿だな、切ったのか?」
「和せんせ!」
和せんせの太い腕に抱きかかえられてそのまま救護センターへ連れてかれた。ついて来ようとした景山君には俺がついてるから大丈夫だと言って。

    

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