月がほほえむから

16.上書きされましたw


「あ、ありがとうございます...あの...」
「無事、なんだね?」
あたしは頷く。でも、郁太郎さんにいっぱい触られてしまった...色んなところにキスされて...
「で、でも...あ、あたし...」
「よかった...」
「でも!あたし、ちゃんと嫌って言えなかった...だから、郁太郎さんに...いっぱい...ひっく...されて...うぐっ...」
宗佑さんの胸に顔を埋めてしまう。顔、あげられないもの...
「日向子さん...」
「こ、怖かった...が、我慢しようと想ったけど、駄目だったの...あ、あたしが郁太郎さんのプロポーズを受けたら、全部がうまくいくんだって、そう思いこもうとしたけど、駄目だったの...笑うかもしれないけど、あたし、夢の中で宗佑さんがしてくれたキスが、忘れられなかったの...すごくリアルで、夢でもすごく嬉しくて...でも、そしたら、他の人にされるのは、やっぱり嫌で...だから...」
「...このキスですか?」
宗佑さんの指があたしの顎にかかると、そっと持ち上げられた。
それから、額に、まぶたに、頬に...そして唇に...
「宗佑さん?」
あたしは息が止まりそうだった。あれは...夢じゃなかったんだ!!
「そう、夢じゃなかったんですよ...酔っぱらったあなたの可愛らしいお願いに、僕の方が我慢できなかった...あのまま日向子さんが寝てしまわなかったら、僕は...今日の郁太郎と同じことをしていたかもしれませんね。」
ゆっくりと離れて、でもすぐ近くにある宗佑さんの顔は、あの夜のお月様のように優しく微笑んでいた。
「あたし...宗佑さんなら構わない!だって、嫌じゃなかった。キスも...こうやって抱きしめられることも...」
宗佑さんは、少し困ったように眉を寄せて笑うと、もう一度あたしを抱きしめてくれた。
「ほんとに...夢じゃなかったんだ...あたし...宗佑さんを好きでいていいの?ずっと想っててもいいんですか?あたし...側にいていいんですか?」
頭一つ上にある宗佑さんの顔を必死でのぞき込んであたしは聞いた。だって今まで、ずっと拒否されてきたこの言葉、今言ってもいいなら、全部言ってしまいたかった。
「ああ...今まで、すみませんでした。ずっと、冷たい態度だったと思います。」
上から降ってくるのは、あの時と同じお月様の微笑み。
「僕もね、正直、郁太郎が日向子さんを好きだと言い出したとき、こんな子供に何を言い出すんだと思いました。協力してくれと言われて、構わないと答えたけれども...圭太が懐いて、とてもいい子だと判っても...それ以上の気持ちを抱いちゃいけないと思ってました。僕は以前に、郁太郎が想っていた女性を横から奪うような形を取ってしまったから...それ以来、郁太郎の恋が今度こそうまくいくようにと、応援するつもりで居たんです。なのに...日向子さんが僕を見る目が辛かった。何よりも、僕自身が惹かれていくことが怖かった。僕が想うのは亡くなった妻だけでいいと、何度も自分に言い聞かせていたのに...だけど...」
「きゃっ」
宗佑さんはあたしを抱え込んだままベッドに腰掛ける。あたしはひょいっと横抱きの形で膝の上に乗せられてしまった。
「郁太郎のモノだと、いくら言い聞かせても、日向子さんはすぐに僕の心の中に入り込んできたでしょう?僕のことを好きだと言い出したり、家族になりたいと言って僕を困らせるし...郁太郎と付き合ってるはずなのに、おかしいと思ってました。日向子さんは、無理してたんですね。何度もそう聞いていたのに、僕は、自分の心を殺すのに必死で、見ないふりをし続けていました。日向子さんの部屋の鍵だって、いつ忍んでいくか判らない郁太郎防止のためでしたが、本当は抑えの効かない自分のためだったのかもしれません。でも僕は、正反対の態度ばかり取っていたから...日向子さんに辛い思いさせたでしょう?」
あたしは必死で頭を振る。
ほんとはすごく辛かった。好きな人に他の人のところに行けと、何度も言われて、最後にはそうしなきゃいけないと思いこんでしまっていたほど...でなきゃこんなところにまでのこのこついて来なかったし、あんなことまで...はっ!
「あのっ!」
「どうしました?」
「あたし、その...郁太郎さんに、色々されて...」
今時分になって気持ちが悪かった。他の男の人に触られた身体で宗佑さんに抱きしめられていることすらもうしわけなく思ってしまう。
「そう、ですね...じゃあ、お風呂にでも入りますか?どうせここは泊まりになってるんですから、使えばいい。」
「泊まり?」
「ええ、ここはホテルですからね、郁太郎が僕たちを残して帰ってしまった今、帰るにしても泊まるにしても、ここの部屋は僕たちが使っていいわけですから。」
「そ、そうなんですか...」
「日向子さんがそれで気が済むなら...ただ、僕は気にしませんよ?」
「あ、あたしが気にします!!だって、だって...」
「たしかにおもしろくはないですけれどもね。行ってらっしゃい、お風呂に入っても駄目だったら...僕が日向子さんをキレイにしてあげますから。」
宗佑さんがくすっと笑うのが、いつもと違って、すごく色っぽかったんですけど?
あたしは急ぎ焦って宗佑さんの膝から降りるとバスルームに飛び込んだ。


必死になって身体を擦り、洗っていく。だけれども、なかなか郁太郎さんの感触が消えなかった。
「やだよぉ...やっぱり、こんなの...」
宗佑さんがキレイにしてくれるって言ってくれてた...。
あたしは、体中の泡を洗い流すと、軽く身体を拭いて考えた。この場であのワンピースをまた着るのはいやだった。あれは郁太郎さんがくれたものだから...それを着て宗佑さんの前には行きたくない。
あたしはバスタオルを巻くとおずおずとバスルームを出る。
「そんな恰好をして...何されても文句言えませんよ?」
「駄目なんです...宗佑さんの手で忘れさせてください。あたしを...」
「しかたありませんね。こっちにいらっしゃい。」


たぶんこういうことだとは判っていたけれども、こんなに...
さっきの郁太郎さんなんか、目じゃないほどイロンナトコロ触られて...
「ひゃぁあぁっっん!!」
「はい、上書き終了。」
「ふえっ...?」
「もう、僕以外思い出せないでしょう?」
あたしはコクコクと頷く。身体の力は入らない...もう、なんかぐったり?き、気持ち、良かったけど...それは...
やっぱり、宗佑さんって、大人なんだ...顔色一つかえてない。あたしはこんなにも乱されているのに...
「意外と大きな声も出すんですね、うちじゃ気を付けないといけませんね。」
「うち...?」
「まさか、うちで指一本触れちゃ駄目なんていいませんよね?僕だって結構辛いんですよ...このまま最後までしてしまいたい気持ちでいっぱいですが、さすがにそれは悔しいです。」
ここは郁太郎が用意した場所だからと、宗佑さんがぼそりと言った。
「じゃあ、帰りましょうか?母も心配してるでしょうし。けれども、もう寝てますけれどもね。」
時計を見ると...えっ?夜中すぎてる...
「いっそのこと泊まってもいいんですけど、立てますか?日向子さん。」
「は、はいっ!」
あたしは急いで立ち上がろうととうとしたけど...
「あれ?」
なんでなの?脚に力が入らない...まだ服も着てないのに!
「あれ?立てませんか?しょうがないですね。これじゃ最後までシタ日には翌日は使い物にならないですね。」
気を付けなくっちゃって...なに?
「あの、あたし、どうして...?」
「手加減しませんでしたからね...今まではその...亡くなった妻は身体が弱かったのであまりキツいことをしたことなかったので、つい、度が過ぎたのかもしれません。どうしますか?もう少し休んでいきますか?圭太が起きる頃までに帰ればいいですけど...」
「か、帰ります!!」
あたしは叫んだ。だって照れくさいし...宗佑さんって、なんだかすごく楽しそうに意地悪なこと言うんだもの。
「でも、あの、その前に...立たせてください...」
そう言うと柔らかく笑った宗佑さんはあたしを立ち上がらせて、それからぎゅうって抱きしめてくれた。

          

年齢制限やばかったです〜〜(涙)
宗佑って、実は…なのかもしれません。口数少ないけど、彼は学生時代生徒会長タイプです。
そして郁太郎、救済話、本サイトの奥に収納されました。年齢制限あります。