月がほほえむから

5.あたしも家族?


圭太くんはあたしの手をしっかりと握ると離さなかった。
「圭太くん、これ、圭太くんにおみやげね。」
そう言って小さな包みを渡す。嬉しそうな笑顔を見ては早めに帰ってきてよかったって思えた。
渡したのは、お正月に近くの神社で買った交通安全のお守りだった。女将さんと宗佑さんには地元の名産物を買ってきてある。
「ひなこ、ありがとな!なあ、きょうはかえってくるのはやかったんだな?」
「うん、夜行バスで帰ってきたからね。」
「な、ひなこ、まえとちがうな?なんかかわったぞ?あれ?」
「あ、うん、髪の毛切ったからだよ。圭太くん気がついてくれたんだね、ありがとう。」
居間に向かう間、圭太くんは一生懸命話そうとしていたみたいだった。
「おう、いくたろがな、おんなにもてたかったらかみがたとかふくがかわったらほめてやらないといけないっていってたからな。」
自慢げに鼻を擦る仕草が可愛い。けど郁太郎さんっていったい子供に何教えてるんだろう?

「あけましておめでとうございます。ただいま帰りました。」
居間にいたみんなに挨拶をしに入って驚いてしまった。
(うわぁ、きれいな女とすっごい、なんかかっこいい男!)
同窓会で見た昔もててた男とはレベルが違う。ジーンズで砕けた格好してるけれども、きっとぴしっとスーツの似合う、出来る男、気の入った目してる。きれいなって言うより男らしい顔立ちは整っていて、独特の雰囲気を持ってる人...女の人がいくらでも寄ってきそうなフェロモンがでてる。それなのに2歳ぐらいの可愛い女の子をだっこしてあやしてるその姿がなんともアンバランス。で、側にいる女の人がまた全然タイプが違うって言うか、意志の強そうな人なんだけど、落ち着いたかんじで華やかじゃなくって、こう、穏やか、そう、揺らがないってかんじなの。なんかくっつきそうにない二人なんだけど、隣にいるとすごくしっくりしてる。
そっか、この人が椎奈さんなんだ...
何度も、圭太くんの口からも、女将さんの口からも聞いたことこのある女性。郁太郎さんからは宗佑さんが再婚を考えてた人だって...圭太くんのお母さんになるかもしれなかった人。
「あなたが日向子さん?初めまして工藤椎奈です。お噂はかねがね伺ってますよ。大学に通いながらじゃ大変なのに、がんばってらっしゃるのね。昨日から圭太くんったらもうずっと『ひなこが』ってすごかったんですよ。」
え?お噂はって、こっちが聞いてたんだけど...
「は、初めまして、田辺日向子です。あの、圭太くんが、ですか?」
あたしもずっと聞いてました、『しいちゃんがねっ』って...
「今だって『ひなこの声がしたっ!』て走っていきましたよ。」
圭太くんはさっきからずっとあたしの手をぎゅってにぎってにっこにっこ笑ってる。もう、またそんなとろけちゃうような笑顔...弱いんだよなぁ、圭太くんのそう言う顔に。
「でもなんか話聞いてたのと雰囲気違うな。」
「そう?」
椎奈さんが主人の圭司と娘の愛華ですと紹介して、愛華ちゃんを自分の膝の上に受け取った。う〜ん、お母さんしてるんだなぁ...でも椎奈さんのご主人はじっとあたしの方を見てくる。うう、なんか怖い...?
「あらぁ、日向子ちゃん、髪型、どうしたのっ?」
お勝手から女将さんが顔をだして驚いてる。
まあ、そうだよね。めがねはそのまんまだとしても髪型はかなり違うから...色もかなり明るいし。
「あのっ、美容師の見習いしてる友人に切ってもらったんです...」
ただいまとおめでとうございますを急いで付け加える。
「そう、まぁ、髪型一つでずいぶんと違うのねぇ、驚いたわ...三つ編みの時はどう見ても高校生にしか見えなかったのに。ねえ、宗佑。」
同じく勝手から宗佑さんが顔を出した。手には正月のごちそうが山盛りになっていた。今からお昼だったのかな?じゃあ手伝わなきゃと思いながら、おめでとうございますと挨拶してお皿を受け取ると、宗佑さんは『おかえり』と言いながらあたしの方を見て頷いていた。
そんなに変わったのかな、やっぱり...
「ひなこ....ひなこったらっ!」
「あ、ごめん、圭太くんなぁに?」
必死の形相で必死であたしを呼んでる圭太くんに気がついた。
「今日、ひなこと一緒に寝てもいいか?」
「へ?そりゃ、いいけど...どうしたの?」
いつもは来年小学生になるんだからもう誰とも寝ないとか言ってるのにどうしたんだろう?
「いいから、いっしょだからなっ!約束したからなっ!」
そう言うと二階の部屋に駆け上がっていった。今から用意する気??
「圭太くん?」
「昨日から愛華ちゃんがお母さんに甘えてるのみて羨ましかったんだろうな。」
「宗佑さん...」
二階に上がっていく息子の背中を見ながら宗佑さんが寂しげな目をしたままそう言った。二人でできあがったごちそうをテーブルに並べる。
「昨日もね、あたし甘えてもいいよって言ったんだけど、圭太くんもうすぐ1年生になるからって、昨日も一緒に寝なかったのよ。」
「そうなんですか...」
あたしはお茶碗やお皿を並べながらどんな顔をしていいかわからずにいた。そんなに愛想のいい方じゃないのに、もうちょっと気が向いた返事の仕方をすればいいのに、あたしったら、感じ悪いよね?まるで、そう、まるで椎奈さんに嫉妬してるみたいだよ。
「圭太くんには、もうあたしより、日向子さんの存在の方が大きいのね。ちょっと寂しいけど、よかったわ...あたしがこんな言い方するのもなんだけど、圭太くんのことよろしくね。」
「えっ、そんな...」
お願いされても、あたしは...あたしは...圭太くんのお母さんの代わりになんてなれないし、椎奈さんの代わりだってできないよ。
「椎奈ちゃん、日向子さんはまだ学生さんだから...結構大変な資格試験目指してるからね、あんまり圭太のことで迷惑はかけられないんだよ。」
穏やかに微笑みながら宗佑さんは『ね?』と、あたしに同意を求めている。
椎奈さんは椎奈ちゃんで、あたしはさんか...やっぱそうだよね。
最初から感じてた違和感、宗佑さんはあたしに必要以上に近づいても来ないし、話しても来ない。あたしみたいな年の離れた子供にまでさん付けなんだもん。
これって、きっと線引かれてるんだよね?椎奈さんのことは一時的にでもお嫁さんにしようと思ったぐらいなんだから...あれ?ってことは、椎奈さんの旦那さんて、それ知っててここに連れてきてるの?思わず旦那さんの方をちらりと見た。宗佑さんと椎奈さんは楽しそうに愛華ちゃんの話をしてる。宗佑さんって子供好きなんだなぁ...
「なに?」
煙草をくわえた椎奈さんの旦那様の、圭司さんがあたしの方を向き直った。
口数は多くないんだろうな、そう言ったきりくわえた煙草に火を付けるとゆっくり煙りをはき出しながらあたしが話し出すのを待ってる見たいで...
「何オレに見とれてるの?いくら見つめてもオレは椎奈のモノだから落とせないよ?」
「えっ?いえ、そうじゃなくって、えっと...」
思わずじっと見たまま考え込んじゃってたみたい。
「いいんですか?」
あたしは極力小さな声で聞いてみた。
「奥さん宗佑さんと話し込んじゃってますけど?」
「ああ、宗佑さんはいいんだよ、椎奈の兄貴みたいなもんだからね。他の男だったら許さないけどね。」
にやって、すっごく癖のある笑い方をしたあと優しい目になって自分の奥さんをを見つめていた。は、恥ずかしくないのかなぁ...この人。だって顔に書いてあるみたい、『オレは奥さんにベタ惚れです』って...確かに綺麗な人だけど、見守られるようなタイプじゃないだろうし、誰かに頼るようなタイプでもないよね?
「でも...宗佑さんって昔椎奈さんと結婚考えてたって...」
「ああ、そのこと?そうだな、あの時はそうすることで家族になろうとしてたんだよな。それも全部オレがひどいヤツだったからって聞いたか?」
煙草を灰皿でつぶしながら圭司さんはちょっと眉を下げて一瞬辛そうな顔をした。
「オレが椎奈に子供出来てるって知らなくて、探してる間に椎奈はここで愛華を産んだんだ。そんな椎奈のことを、ここの人たちは親身になってくれて、愛華が産まれた後本当の家族になろうとしていたんだ。圭太もほんとうに椎奈に懐いてたし、椎奈が圭太の母親に、そして宗佑さんが愛華の父親になろうとしてくれていたんだ...オレがようやく椎奈を見つけてここに来た時にはそう決まった後だったよ。でも、オレだってね、椎奈のこと愛してるから、絶対離す気なんてなかったし、見つけた時点ではすでに椎奈はオレのモンだったしね。オレがこの世で一番信用できるのが椎奈なんだ。だから宗佑さんといくら仲良さそうに話してても平気ってワケ。宗佑さんも、女将さんも、椎奈が信用してる人だから、オレも信用してるんだ。」
な、なんかすごいのろけ聞いたような...要するに、信用できる出来ないは奥さんが基準なわけ?
またとろけるような視線になってじっと、その、愛しい奥さんを見つめてる。
それだけ強い繋がりなんだ...つい数ヶ月前にここに転がり込んだ学生のあたしなんかじゃ入りきれない、この人達は家族なんだ。椎奈さんはさしずめこの家から嫁に行った娘ってわけね。
ちょっとだけ距離を感じて、愛華ちゃんを抱き上げてる宗佑さんを思わずまたじっと見てしまった。
子供好きだよね、ホントに...子育てのために大きな会社辞めちゃったって聞いた。それほど子供と、亡くなった奥さんのこと愛してたんだよね。
「けど、日向子ちゃんもこの家に馴染んでるよ?」
「え?」
「圭太は昨日から日向子ちゃんの話ばっかりだった。きみがちゃんと圭太を見てくれてるのがわかって、椎奈は安心したんだよ。圭太のお母さんになるって約束してたのにオレのとこに来たから、ずっと椎奈は気にしてたんだ。圭太のこと、気持ちのどこかではもう息子みたいなモノだったからな。あいつ、見かけああだけど母性の塊のようなヤツだからな。だからオレみたいなヤツもほっとけなくって、オレのとこに戻ってきたんだ。けど、圭太が日向子ちゃんのことばかり口にしてたから、椎奈も少し寂しいのがあったみたいだ。だけど、たぶん日向子ちゃんの顔を見て安心したんだと思うよ。あんたすっかりここの家の人間になってるだろ?」
そうなんだろうか?あたし、この家の人になりきれてるかなぁ...?あたしは母親しかいない家庭で、その母親もあたしを置いて仕事に出掛けていて、いつだって一人で帰りを待っていた。
でも...ここには、あたしが帰ってくるのを待っててくれる人がいて、あたしにお帰りと言ってくれる。必要だとぎゅっと小さな手を繋いでくれる...
あたしの欲しかったもの...知らなかった温もり。
ここはあたしにとっても、家になりつつあるんだ...椎奈さんみたいに本物の家族になろうとするほど強い絆じゃないかもしれないけれども。
「日向子ちゃんがいい子でよかったよ。」
そう言って圭司さんがあたしの頭をぽんぽんと優しく叩いた。まるで、お兄ちゃんが居たらそうしてくれるだろう仕草で...
そっか、そう言うことなんだよね。
あたしは自分がここに居てもいいんだよって、改めて言われたような気がして嬉しかった。


椎奈さん達は遅くならないようにと3時頃には車に乗り込んで帰っていった。
「日向子さん、よかったら買い物にでも行きませんか?圭太が椎奈ちゃんたちにもらったお年玉でおもちゃを買いたいらしいのですが、お付き合い願えませんか?」
「いいですよ。」
あたしはお財布と小さなバックを持ってコートを着た。このコートもバックもタンスの中にはいてった物をお借りしてる。あたしが亡くなった奥さんのを使ってると宗佑さんはなつかしそうな目をする。あたしから聞かないとそれがどういったものかなんて絶対に教えてくれないんだけど、あたしも不意に気になることがあるとつい聞いてしまう。
「このバック、大切そうに箱の中にしまわれてたんですけど...」
「ああ、それは...」
妻の誕生日に買ってあげたものだと宗佑さんは運転しながら答えてくれた。
折に触れて話してくれる宗佑さんの奥さんの話、嫌いじゃなかった。優しい、けれど儚い人だったと郁太郎さんが言っていた。宗佑さんとは高校時代からの同級生で、身体が弱く、そのころからつきあってた二人だったけどいつも日だまりの中でほほえんでるような穏やかなカップルだったんだと語る郁太郎さんの表情もすごく優しげだった。郁太郎さんにこんな顔させるってすごい人だったんだって思った。宗佑さんは大学卒業して、大企業に就職して結婚の条件を整えると奥さん、菜々子さんを迎えに行ったらしい。食堂の息子にはやれんと奥さんの実家からは結婚を反対されていたらしい。身体の弱い娘がそんな忙しい家に嫁に行って苦労するのは許せなかったらしい。だから宗佑さんは自力でマンション買って、菜々子さんを大事にするって条件で結婚を許してもらったって...それ話す時の郁太郎さんの顔を見てて一つだけ気がついたことがあるんだ。郁太郎さんって、たぶん菜々子さんのこと...
「日向子さん、つきましたよ?」
「あ、はいっ!」
あたしはいつの間にかデパートの駐車場に着いてるのにちっとも気がついていなかったみたい。
「ひーなーこ!」
急いで降りると、圭太くんがへっへと笑ってあたしの手を握った。
「ひなこ迷子になるといけないから、手つないでてあげるからね!」
あはは...迷子ね、うん、なりそうかも。デパートとかって苦手なんだよね。
「けど圭太も迷子になっちゃいけないからお父さんと手を繋ごうな。」
そう言って宗佑さんは圭太くんの反対の手を握った。あれ?これって...
あたしが憧れてた両手にお父さんとお母さんの図?ちらっと見ると圭太くんが無茶苦茶嬉しそうな顔をしてるんだよね。
そっか、圭太くんもこれしたかったんだ?あたしも小さい時憧れたんだよね。お買い物に行った時、余所の親子連れの楽しそうな風景、自分の右手にだけ母親の温もり。思わずぎゅうって握りかえしたっけ...
嬉しそうに弾む足取りの圭太くんを連れてまずは最上階のおもちゃ売り場に向かう。そこで圭太くんはずっと前から欲しがっていたテレビの戦隊物の変身セットを手に入れた。お友だちが持ってたの見て欲しがってたもんね。年末まで食堂が忙しくて何もしてあげれないって女将さんも悔やんでたもんね。早く連れて帰って女将さんに圭太くんの喜んでる顔見せてあげたいなぁ。
「日向子さん、次ちょっとつきあってもらっていいですか?」
「はい、いいですけど?」
そのまま連れられてエレベーターを降りていく。
「椎奈ちゃんがね、時間があれば自分が付き合いたかったんだけどって。」
目の前には眼鏡屋さん。
「え?」
「僕が代わりに選ぶことになったからね。」
なんのこと?ぼけっとしてるあたしをよそ目に宗佑さんは店内に入ってイロイロと物色し始めた。
「これなんてどうかな?日向子さん、かけてみて。」
「あのっ...」
断るまもなくあたしはめがねを取られて代わりに細いフレームのめがねを顔に置かれる。
「お似合いですよ、めがねを変えられるとぐんとお綺麗に見えますね。奥様、そちらのめがねの時はすごく幼げに見えられますのにね。」
女の従業員さんが寄ってきて褒めてくれるんだけど、めがね取るとよく見えないんだけどね。それに奥様って...
「こっちもかけてみてくれますか?」
この敬語聞いてれば夫婦なんかじゃないってわかりそうなものを...
「あら、そちらもお似合いですわ。」
褒めすぎだよ、おねえさん...
結局フレームを選んだまではよかったんだけど、で、どうするわけ?
「じゃあ、このフレームで作ってください。度数も測り直してもらえますか?」
あたしは強制的に機械の前に...
「あのっ宗佑さん?」
「ああ、椎奈ちゃんがね、日向子さんが年相応の格好をしてないからといってあなたにお年玉置いていったんですよ。」
「お、お年玉??」
「いいんですよ、もらって置きなさい。彼女ああ見えてブライダルプランナーとして結構お給料もらってるらしいですから。」
にっこり笑ってるけど、この年で落とし玉なんて...
「では1週間後にお引き取りに来てくださいね。」

「でもなんで...」
あたしはまだ納得いってなかった。
「日向子さん髪型変えたでしょう?あのめがねはあまりにあわないそうで、椎奈ちゃんから絶対に変えるようにって言いつかったんですよ。」
「そんな、でも...」
椎奈さんにそこまでしてもらう理由なんてないはずだよ?
「嬉しかったそうですよ、日向子さんがいてくれることが。」
それでも...
「受け取ってあげてください、その...日向子さん髪型変えて、めがね変えたらすごく綺麗になりましたよ。女性なんですから綺麗にしてると彼氏も出来たりして、いいんじゃないんですか?」
「あたしは...彼氏なんていらないですし、綺麗になったって勉強の邪魔です。お金だってかかるし、あたし無駄なことにお金や時間使いたくないんです。それとも、宗佑さんも前のあたしだったら一緒に連れ立って歩くの...恥ずかしかったんですか?」
母親にそう教わってきた。無駄なことにお金を費やしてもなんの意味もない。母も独り身になってからいろいろと言われたらしく、結果飾らず、地味にしていたら文句がなかったそうだ。そうしてるだけで仕事もちゃんと続けられたんだからとよく聞かされた。あたしも勉強するのにアイドルや男子生徒にきゃーきゃー言って学生の本分たる勉学に支障をきたしてるクラスメイトの女の子を見るたびにそう思った。高校生なのにマスカラやファンデーションで塗りたくって、毎日帰りに買い物によって、本当に不経済だ。
でも、宗佑さんもやっぱりダサダサのあたしを連れて歩くのって嫌なんだろうか?圭太くんは...全くどっちでもいいみたいなんだけどね。
「三つ編み姿の日向子さんと圭太と3人で歩くのも全然恥ずかしくないですよ。ただどう見ても僕が大きな娘と小さな息子を連れてるって感じでしたけどね。今日はどうやら僕の奥さんに見えるらしいですね。嫌な思いさせてしまいましたか?」
「いえ、そう言う訳じゃなくて...」
立ち止まって不思議そうな顔をしてこっちを見ている宗佑さん。そうだよね、見かけで判断するような人じゃないよね。あたしも嫌じゃなかった。今日のあたしは前のあたしよりも少しだけ堂々としてたかもしれない。何でかなんてわかんないけど...
「けど...明日からは日向子さん気を付けた方がいいですよ。それだけ可愛くなったら一杯狙われますから。」
ゲームセンターで走り回る圭太くんを見ながら、くすくすと笑う宗佑さんが言う。
「あたしが狙われるワケないじゃないですか!」
思わず大きな声でそう答えると、側まで来ていた圭太くんが飛んできた。
「ひなこ、ねらわれてるのか?じゃあ、ぼくがまもってあげるっ!」
「圭太くん...」
早速身につけた変身セットでポーズをとる圭太くんがあまりにも可愛くて、あたしは思わずぎゅうって抱きしめてしまった。
「ほんとに?じゃあ、お礼にあたしがソフトクリーム買ったげるよ。」
圭太くんの大好きなソフトクリームと口にするとやったと叫んでまた走り出した。あたし達は引ぱられてそのまま連れて行かれてしまう。
宗佑さんもあまりの勢いに苦笑している。ソフトクリーム売り場でまた親子連れに間違えられて、椅子に腰掛けて必死で食べる圭太くんを見てると不思議な気分だった。
「まえにしいちゃんとここにさんにんできたんだよ。あのときはね、ごはんいっぱいたべたからソフトクリームはたべなかったんだよ。」
「そうなの?」
圭太くんの記憶の中にお母さんはあまりいない。時々こうして出てくるのは椎奈さんのこと。数年後、圭太くんの口からあたしのこともこうして語られるんだろうか?あたしはたぶん試験に受かればこの家を出て行くんだろう。それでも椎奈さんのように時々は家族の様に戻って来るんだろうか...
だけど、いつか出て行く身としては勝手な言い分だけど、表だってはみんなと同じに扱ってくれてるようにも思えるけど、宗佑さんにはどこかで線を引かれてるような気がしてならなかった。

椎奈さんほどは受け入れて貰えてない、そう思えたお正月だった。

          

お正月、帰省?していた工藤家とのご対面でした〜愛華ちゃん出番少ないです(笑)
なかなか動いてくれない日向子と宗佑。このままどこまで行くんでしょうね?う〜〜ん