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光の巫女

翌朝からのミーアの様子はちょっとおかしかった。いやちょっとじゃないかもしれない。

「なあ、何か怒ってんの?」

今朝からにこりともしないミーアを不満に思うジンは思い切って聞いてみたのだが...

「べ、別に!怒ってなんかいない、何でもない...。」
「それって何でもないって態度じゃないと思いますけどね。」

顔をそらして俯くミーアに益々不満が募る。ジンは醒めた口調でそう言いながらくるりとミーアの前に立ちはだかった。

「あのな、こうして二人っきりでさ、人気のない山道を旅してるんだ。ミーア以外に話し相手なんていないだろ?そう仏頂面して黙りこくられると堪まんないんですけど!」

ジンの口調も少し強めだ。朝、小屋を出発して、昼食をとってからも、ずーっとミーアはしゃべらない。しゃべらないどころか目も合わさない。幼い頃から共に育ったジンでも、こんなミーアは初めてだった。
痺れを切らしたジンはミーアの腕を掴んで、顎に手をかけ俯いたまんまのミーアの顔を無理やり上げさせた。

「ミーア?いい加減にこっちくらい見たら...えっ?な...ミーア?ど..うしたの?」

聞くまでもない。ミーアは耳まで真っ赤に染めていた。瞳も心なしか潤んでる。けれど目線は絶対にジンと合わそうとしない。

「熱とかあるんじゃ...ないよな?」

掴んでる腕とかおでこはそんなに熱くはない。

「ちが...う、離して...ジン。なんかあたし今日は凄く変なんだから!自分でもよくわかんないんだけど...。」

言葉にも力がないという言うか、まったくいつもと違う。泣きそうなほど弱弱しい。

(まさか...これって、もしかして...俺のこと意識してる!?)

「ミーア、変て胸が苦しい、とか?」
「うん...」
「顔が熱い、とか?」
「うん...」
「めっちゃドキドキする、とか?」
「うん...」
「それって、俺をみるとそうなっちゃう、とか...?」
「..........う...ん...」

とてもじゃないけど見れないって言うような視線でチラッとジンを見上げてからミーアが頷く。

(うそだろ?今まで散々弟扱いしてきたくせに!なんで?)

いつも年上ぶって、ジンの軽口に対抗してきたのに、素直すぎる反応にジンも戸惑う。
これが旅に出る前だったらどんなに嬉しいことか!ゆっくりとお互いの気持ちを分かり合えばいいだけなのに...
けれどミーアが光の巫女にならなければならない今、もう引き返せない旅に出てしまった。今更、だ。ジンの想いはもう遂げられないものだとそう言い聞かせてきたのに...。

(けどこんなに意識されちゃ...極端すぎるんだよ、ミーアは!)

「急にどしたの?ミーア、俺なんか変なことしたか?」
「し、してないよ〜!わかんないの、昨日から...。今までジンと家族としてずっと暮らしてきてたのに、ぜんぜんわかってなくて...いつの間にかすっごく逞しくなってるし、大人みたいだし...側に寄られると苦しくなっちゃうし、顔見れないし...。その癖この旅が終わったらいなくなっちゃったりしないかって考えると涙まで出てきそうになるし、眠れないし...どうしてかな?あたしおかしくなっちゃったのかな?」

(...それを俺に聞きますか?)

ジンにどう答えろというのだろうか?

ナルセスに対する思いは、見目も美しい聖職者に対する尊敬と憧れの混じったもので、相手が聖職者ゆえに思いを遂げるとかはまったく考えていなかったものだろうということは、ジンにもうすうす判ってはいた。いままで弟のようなものと思い込んでいたジンを意識し始めた理由、それはミーア自身にしか答えの出せないものだけど、ジンに問うほど、この急激な意識の変化に戸惑っているのだろう。

ジンも知りたいと思ってしまう。ミーアの気持ちを。
ただ単に意識しているだけなのか、それとも...。
聞いても、動けないはずなのに、ジンもそういう意味ではまだまだ少年なのだ。

「じゃあ、今からゆっくり考えてみてよ。」
「うん...」
「ミーアは、俺のこと嫌い?」
「嫌いなわけないじゃない、大好きだよ、あっ...」

『好き』と言う言葉を口に出してしまった自分に驚く。今まで使っていた『好き』は弟として家族としての好きだった。でもそれを言葉にして初めて気付く。もう同じ意味じゃないことに。
ジンだってそうだった。家族としての『好き』と違うことにもう何年も前に気がついていた。気付いてしまったらもう『好き』という言葉は容易く言えなくなってしまた。そのせいでしばらくの間ギクシャクしてしまった。それでもジンが冗談交じりに口に出しはじめるとミーアは怒りながらも、それが自然になっていった。ジンも心の奥に溜め込んでいられるほど大人じゃなかったし、抑えすぎて爆発させるのが怖かったからそれでよかったのだろう。
ミーアはあんまりにも側にいすぎて、手を伸ばせばすぐに届いてしまうから...。

「それってどんな意味での『好き』なの?」
「...わかんないよ...わかんないよぉ...」

ミーアの瞳からぽろぽろと涙がこぼれる。ジンはミーアの涙には弱い。自然とその手がミーアの肩を引き寄せる。

「泣くなよ、ミーア...こうやって俺がミーアに触れるのは嫌か?」
「嫌じゃない、よ...」
「じゃあこうは?」

そっと抱きしめた。ミーアの肩先が少し震えてるのが判る。

「嫌じゃない...けど、なんか、心臓破裂しそうになるよぉ...」
「俺の心臓も爆発しそうだよ。ミーアに泣かれるとこうしたくなるんだ。」
「ほんとだ、すごくどくんどくんしてるね...でもジンの胸の音って安心するよ。」

ジンの腕の中で感じる安堵感。ミーアに触れてる部分から伝わってくる優しさ。

「ずっとこうしたいと思ってたよ。俺はね。」

その腕にさらに力を込めて抱きしめる。

「痛いよ...ジン?」

しばらくそのまま二人抱き合っていた。
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