Home Top 1        10 11   

光の巫女

11

ミーアは司卿に呼ばれて部屋を出て行った。
ジンは部屋を出ることも出来ずに床の上に座り込んでいた。
手のひらにはミーアの柔らかい乳房の感触が生生しく残っている。身体全体にミーアの肌のぬくもりが、唇にも、はっきりと記憶を辿れるほどの鮮明さで今にも蘇ってきそうだ。
けれどそれ以上に身体が感じる別の感覚があった。
以前にも一度経験しているそれは、そのときよりもゆっくりと優しくジンの身体に入り込んできた。
(まさか、光の力?)
それはありえないだろうとすぐにその考えを打ち消す。なぜなら、神聖なキスをミーアに与えながらもやはりジンはミーアを欲していた。その打ち消せない事実は自分の腰元にあったから...
水晶の影響を受けると、そんな気持がなくなるとナルセスは言っていた。ミーアもここに来てもう何日も経つのにいきなりの、あの行動。驚きはしたが、嬉しくもあった。ミーアの気持は十分に伝わって来た。喜んでくれていると思っていいほどミーアの身体は反応していたように思う。それに思わず暴走しそうになった自分を思い出し苦笑した。
(俺にはわからん。だけど、ミーア全然変わってないよな?)
まだ日が足りないのかと思いながらその部屋を後にした。



――儀式の日――
人々が狭い水晶の部屋を取り巻くように見守っている。
ミーアとイリナが二人水晶の前に立つ。二人の手にはこの間使った水晶の玉がある。2つ存在するそれは対の光を放っていた。
ここに参列できるのは大司祭クラスだが、ナルセスもイリナの守護者として参列していた。
簡単に儀式の内容は聞かされていたものの、その神聖な空気にジンは一言も発する事も出来ずにいた。
(まただ、あの変な感覚が戻ってくる...)
昨日再び感じたあの違和感が戻ってきていた。
ミーアとイリナは互い違いに水晶を持つ手と、相手の手を重ねて二つの玉を高く持ち上げたその瞬間。

「うわっ!?な、なんだ?これは...」

――光っていた。ミーアも、イリナも、そしてジンまでもが...
(まただ、又何かが入り込んでくる、俺の中に...)
あの時、黒いもやに操られる男を斬った時と同じ状態の自分に驚く。しかし一番驚いていたのは司卿をはじめ教会の重鎮達だった。

「ま、まさかそんなことが...」
「いやしかしこの光は...間違いない!」
「しかし、200年以上前の話で、事実かどうか...」
「ジン、お前...」

口々に出る言葉に困惑しながらも、驚いた顔を隠しもせず近づいてくるナルセスに視線を合わせた。

「ナルセス、これは?どうなってるんだ、俺は...」
「ジン、お前光の騎士だったのか?」
「はぁ?そんなの知らねえよ!それよりこれは?」
「だから、伝説に残る光の騎士だ、お前は...」
「わかんねえよ、なんだよ、それ?」
「私が説明しましょう。」

ナルセスを攻め立てるように説明を求めるジンの前に進み出てきたのは総大司卿の姿であった。この教会を統べるその人であった。

「今から200年前にこの国の建国者カイナン=キャッシュアは奥方と共にここから吹き出る瘴気をこの水晶で封印し、この土地を聖なる地にお戻しになられた。それまでは人も寄り付かぬ、この土地に光を、恵みをお与えになられたが、決して人の上に立つことを望まれず、ここに教会をお立てになり、神への心で秩序をこの国にもたらされたのです。幾度となく、国を我が物にせんとされる者からも、その不思議なお力でお守り下されたと伝えられております。そのお子達も国中に散らばり教えを広められました。カイナン様は光の騎士、奥方様は光の巫女様としてここで水晶を護っておられた。奥方様亡き後は、ただ一人ここに残っておられたそのご息女が、二代目の光の巫女様です。しかしご息女は御子をもたれませんでしたので、国中から、同じ力をもった少女を探し出しました。それはカイナン様の孫に当たる方だったと聞いています。そこから現在の光の巫女様に至っております。伝えられているカイナン様はその水晶の力を奥方様のお力をお借りして自由にお使いになられたそうです。そう、今のあなたのように、ジン=フォレス殿。」

総大司卿は膝を折り、ジンの前に頭を垂れた。

「ジンは光の力で黒いもやに操られてる者を倒しました。それがそうなのですか?」

ミーアが二つの玉をイリナから受け取りこちらを向いていた。

「そうです。ジン殿、光の巫女様のお側へどうぞ。そして共にその手に光の水晶を!」

促され、ジンはミーアに歩み寄る。もう当分近づくことすら出来ないと諦めていたのに。
ミーアの持つ水晶に手を翳す。光がジンの中へ集まっていく。

「人の負の部分を吸収した混沌は、次第に増え続け、イリナ様の時にもここから漏れ出てしまいました。徐々に代々の巫女様のお力も弱まる一方でございました。おそらく今のジン殿とミーア様には、一部分でも消滅させる事が出来ましょう。もしイリナ様が放出される混沌の力を制御なさることが出来れば...」
「わかりました。やってみましょう。ミーアの力があれば、私にもその位なら出来ると思います。」

その後ろにはナルセスが立つ。

「では、大水晶を...」

合図と共に大水晶がゆっくりと動き始める。そこから、以前見た黒いもやが湧き出てくる。
司卿たちは祈りを捧げ始めた。

「ジン、いい?」
「ああ、たっぷりと注ぎ込まれてくるのが判るよ。」

ジンは剣を抜いて構える。剣が一番自分にこの光の力を具現化するのに最適だと思われた。長年積んできた修行のまま、すべての力を剣に込める。
黒いもやはかなりの大きさに膨れ上がり一つの塊となった。

「ジン、今よ!」
「でやーーっ!!!」

渾身の力をこめた一振りであった。
剣の放つ光の力に押され、その姿を消していく。

「おおーっ、黒もやが消えていく...」
「水晶の下の混沌の力が消えていく、感じないほどに...すごいわ、今までこんなことなかった!いつも圧迫するような力を感じていたのに!」

イリナが驚いた顔でミーアたちを見つめていた。

「光の巫女様、光の騎士どのに祈りを!」

大司卿の声に水晶の間が祈りの声で満ちていく。

「何がなんだか、よく判らん。」

頭を振るジンに、ナルセスが並びその肩に手を置いた。表情は明るかった。

「要するに、すべてを200年前まで戻したってわけだ。おめでとう、光の騎士ジン=フォレス」
「めでたいのか?まあ、よくない事態は避けられたってことならいいが...」
「ははは、そうだな、だがそれだけでなく...」

ナルセスはジンの耳元で小さく言った。

『よかったな、光の騎士と巫女は夫婦だったんだよ。』
『え、それって...』

総大司祭の決断を仰ぐがな、と付け加えた。

『けれど急にこんな風になるなんてな。先日まではそんな気配何もなかったはずだが?一体お前は何をやったんだ?』
『それは...』

ジンが顔を赤く染めたその時総大司卿にミーアと二人別室に呼ばれた。
「お掛けなさい」
「光の騎士殿、光の巫女様、私の在職中にお二方をお迎えできて光栄です。まずはお二方にお聞きしなければなりません。お二人は、その、契られたのですか?」
「えっ?そ、それは、まだです!」

なんてことをいきなり聞き出すんだとジンは面食らった。隣でミーアは首まで真っ赤になっている。

「おかしいですね?あの場では言えませんでしたが、光の巫女様が契られてもその力を落とすことなくおれるのは、その相手が光の騎士殿である場合だけのようなのですが。水晶の力で巫女様自身の繁殖能力をなくす方が多い中、そういう事態は滅多にないのですが...。その、公にはしてはおりませんが、ここにたどり着くまでに契られてしまい、巫女の資格を失った方とか、巫女になってから無理やりの形で契られた方、合意の場合でもそういった場合、ほとんどの巫女様が水晶に力を注ぐことが出来なくなっております。そのため教会側もそういった戒めにはついうるさくなってしまい、今にいたっておりますが...。実は、50年前に、一度だけ、光の巫女様が任期を終えられるその直前に守護者の方と契られてしまい、そのお二方が逃げる際に追っ手を振り切るときに騎士殿が光の力を使われたことがございます。そのあといくら捜してもそのお二方は見つかりませんでした。そのときにもしかしたらと調べておったのです。契られても光の巫女様の力を失わない場合、そのお相手が光の騎士といわれたカイナンと同じ力をもたれるであろうと...それが長年水晶の力を研究してきた教会側の見解です。」

ミーアはそれを聞いてまだ下を向いている。言い出しにくいのはミーアからジンを求めた事実だ。最後はジンが思いとどまったが、『もしかしてやっちゃってよかったのか』と喜びを押し隠すので必死だった。

「その、身体を重ねたのは事実です。最後の一線は越えてませんが...すみません。」

ジンは正直に総大司卿に真実を告げた。

「いえ、本来ならば、巫女様の力を奪う重大事ですが、お二人は思いとどまられた。その上でそのお力を手に入れられた。もう何も申すことはございますまい。お二人の思われるように、なさられませ。教会側は、あなた方に従いましょう。200年前のように...。」
「あの、それって、俺とミーアは一緒に居てもいいってこと?」
「一緒に居てもらわなければなりますまい。」
「ということは、一緒に暮らしても、け、結婚してもいいの?!」

ジンの焦ってどもるその問いにも総大司卿は頷いた。

「じゃあ、ミーアとしてもいいんだ!!」
「やだ、ジンったら、馬鹿っ!」

ジンのストレートなその問いに総大司卿も苦笑を隠しきれずに答えた。、

「はい。心行くまで愛し合いなさいませ。カイナン様と奥方様も仲むつまじかったと伝えられております。そのお子達はまた国の守りの礎となられることでしょう。ただ、その重責だけはお心に納めおきますよう。」

要するに国を治めろといった含みを持つその言葉もジンは理解しながらも目の前に開けた未来を喜んで受け止めた。

「ミーア、俺、ミーアに触れてもいいんだってさ、ずっと我慢してたけど、ミーア愛してる!結婚しよう!な?」

人前での突然のプロポーズに『もう!』と照れながらもミーアは頷いた。そのとたんミーアをきつく抱きしめたジンに咳払いの邪魔が入った。

「ジン殿、ミーア様、ではお二人の結婚の儀式を教会で仕切らせて下さいませ。できれば、その、睦事もそれまでご遠慮いただけるとありがたいのですが...」

申し訳なさそうにそう進言する総大司卿を恨みがましくひと睨みしたジンはミーアになだめられると、仕方なしに頷いた。

「ね、イリナ様とナルセス様の結婚の儀も一緒にしちゃだめかしら?」

ミーアの提案に総大司卿は笑って了承した。



それから1週間後二組の結婚の儀が執り行われ、光の騎士の再来は国中に知らされた。
国王を持たぬこの国が、光の守護を受けそれから長く栄えたのは言うまでもない。
光の騎士と光の巫女は仲睦まじく、時折けんかをしてはまた仲直りを繰り返し、何人かの子供にも恵まれ、またそのお子達が自ら望んで国中に散らばっていかれたのはそれから十数年後のことになる。ただ一人の娘を教会に残して...


「ミーア、愛してる。絶対に離さないからな!」
「ん、ジンあたしも...愛してる。――すべての愛をあなたと、子供達と、この国に住まうすべての生命に――」

光は満ち続ける。愛の思いで...

Fin

あとがき
最後まで読んでいただいた方、ありがとうございます。
光の巫女連載終了です〜やっと書けましたが...(笑)
続きというか肝心な部分はいつものごとくですが...そのうち...

なかなか感想とかいただけなくて、途中しぼんじゃってました。
本当に誰か読んでくれてるのだろうかと(笑)
BBSで励まして下った方々いつもお世話になってるまっき〜!
感謝しております。ありがとうございました♪
もし感想いただけるのでしたらメール、BBSなどでお願いします。
泣いて喜びますので〜もしかしたら次回作が早くなるかもです。
(今のトコまったく予定がない??)
検索サイトの投票も入れていただけたりするとすっごく励みになります!よろしくです。

ランキングに参加しております。もし、よろしかったら、ぷちっとお願いできませんでしょうか?

NEWVELからの方
楽園はサイトの検索の枠内に投票ボタンがあります。ファンタジーで登録しております。
こちら
Back TOP BBS MAIL